吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

2019-01-01から1年間の記事一覧

2019年の読書を振り返る

今年は「ヤフー」から「はてな」に引っ越しという転機が訪れ、初心に戻って拙い感想を綴っている。いつまで続きますか。毎年その年の印象的な本を10冊程度リスト化していたので、はてなブログ移籍後初めての印象に残ったリストを書きたいと思います。 2019年…

黄金列車

著者:佐藤亜紀出版社:KADOKAWA ドイツ崩壊が近づく中で、ユダヤ人から没収した資産を管理するハンガリーの役人バログはその資産を退避するための「黄金列車」運行メンバーとなる。 混乱の中、生きるため、欲求のためあからさまに財産を狙うあらゆる人間た…

掃除婦のための手引き書  ルシア・ベルリン作品集

著者:ルシア・ベルリン翻訳:岸本佐知子出版社: 講談社装幀:クラフト・エヴィング商會 現実なのか想像なのかいずれにしても到底浮かばない表現力、比喩力が凄い。フォーカスされた状況を簡潔な文章で描き出しているがために理解できずにスルーしてしまうと…

黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄

聞き手・構成:春日太一出版社:文藝春秋 奥山和由といえば松竹解任のごたごたが思い起こされるが、なぜそれが起きたかは本書に詳しい。ただし一方的な見方なので、松竹側からの反論も聞きたい。良しにつけ悪しきにつけアクの強い人であることは確かで、クセ…

オーバーストーリー

著者:リチャード・パワーズ翻訳:木原善彦出版社:新潮社 アメリカの原始林にそびえる大木を開発による危機から守る人たちの戦いが描かれる。と書くと単純な話しになってしまうが、第一部の登場人物たちの物語がそれぞれ面白い。栗の木の写真を代々撮り続け…

ぐるぐる問答(森見登美彦氏対談集)

著者:森見登美彦出版社:小学館 読み損ねたので文庫でゲット。伊坂幸太郎との対談などが追加されているのでちょっとお得。同業者同士の対談もいいけど色々な分野の人との会話で普段よりテンションの高いモリミーが出ていた気がする。万城目学との仲良しな会…

無人の兵団 ― AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争

著者:ポール・シャーレ翻訳:伏見威蕃出版社:早川書房 ネットが繋がらなくなって焦った週末。綱渡りで仕事に影響がなくてホント良かった。 近頃何かにつけてAIが取り沙汰されるが、ターミネーターのような世界がいずれ来るのだろうか?と考えたことがある…

くらげが眠るまで

著者:木皿泉出版社:河出書房新社 木皿泉の初期作品のシナリオ本。年の差夫婦(イッセー尾形、永作博美)のちょっとした日常が描かれるシチュエーションコメディー。残念ながらこの作品は見ていないが、二人の顔や仕草が頭の中で綺麗に再生され楽しめた。既…

他人事

著者:平山夢明 出版社:集英社 この夏、「ナツイチ」の一冊として平積みされてたのを見かけ、読んでないのに気づき購入。映画「ダイナー」と合わせて一気に売ろうと思ったのでしょう、気持ちはわからないではないが「ナツイチ」の一冊に加えてもよかったん…

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー

編集:ケン・リュウ翻訳:中原尚哉/大谷真弓/鳴庭真人/古沢嘉通 出版社: 早川書房 思っていたよりも楽しく読めた「三体」で中国作家をもう少し知りたくなり、文庫本になった本書を勢いのまま購入した。ケン・リュウの序文で「中国SF」には中国の社会背景…

黒い玉

著者:トーマス・オーウェン翻訳:加藤尚宏出版社:東京創元社 ベルギー作家の作品自体初読みだと思うが、ベルギーを代表する幻想派作家とのことで読んでみた。 14本の短編は移動やちょっとした空き時間に日常から離れるにはちょうど良かった。 特に怖いとか…

僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた

著者:アダム・オルター翻訳:上原裕美子出版社:ダイヤモンド社 今の時代がいかに依存症で覆われているかがよくわかる。様々な依存症を具体例に説明されると自分もその依存症と無関係でいられないどころか既に侵食されていることに気づく。デジタルドラッグ…

写楽とお喜瀬

著者:吉川永青出版社:NHK出版 能役者・斉藤十郎兵衛が写楽として短い期間に残した絵を世に放つ経緯と苦悩を描く人情噺。 芝居を観たいがために役者絵を描き、士分のため名前を秘す必要がある十郎兵衛。陰間であるお喜瀬との出会いと別れや許嫁の不幸な死な…

三体

著者:劉慈欣(りゅう じきん)監修:立原透耶翻訳:大森望、光吉さくら、ワン・チャイ出版社:早川書房 中国人作家が書いた評価が高いSFという程度の前知識しかなかったので文化革命からの導入に驚いた。しかし中国の歴史や社会背景と、ナノテクやVRゲーム…

ゆめこ縮緬

著者:皆川博子出版社:KADOKAWA 大正、昭和初期を舞台に耽美で妖しい世界を浮かび上がらせる8編はいずれも濃密な匂いが漂う。ほとんどの作品で1行目を読んだ途端引き込まれる確率の高さには参る。馴染みの薄い古い言葉が妙に心地よく、その場で自分が息をひ…

歴史と戦略

著者:永井陽之助出版社:中央公論新社 80年代に書かれたものだが、内容的は日露戦争や、第二次世界大戦を題材に書かれているためそれほど古さは気にならない。ヒトラーのアメリカへの宣戦布告に関する解釈は、そんな理由なのか?と信じがたいが色々な見方が…

暴君:新左翼・松崎明に支配されたJR秘史

著者:牧久出版社:小学館 松崎明という革マル派が労働組合を利用しながら国鉄、JRを牛耳っていたという事実にうんざりする。その昔、本書でも参考にされている立花隆の「中核VS革マル」を読んだが、その時の内ゲバや対立、分裂がそのまま国鉄、JR内で展開さ…

戦国十二刻 始まりのとき

著者:木下昌輝出版社:光文社 応仁の乱の相国寺炎上から脈々と繋がるその後の時代の変わり目を描く連作集。 登場人物たちにかかわるアイテムがうまい具合に繋がっていて楽しめる。 稲葉城乗っ取りにまつわる「小便の城」は他の話とは雰囲気が違いコミカルに…

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

著者:ブレイディみかこ出版社:新潮社 イギリスに住む著者と子供を通して見えてくる様々な現実に考えさせられる。人種や格差問題が親しみやすい文体でとても分かりやすい。いずれ日本にも同様の問題が溢れてくるだろう。子供たちの置かれた環境がいかに大人…

サイバー完全兵器 -世界の覇権が一気に変わる-

著者:デービッド・サンガー翻訳: 高取芳彦 出版社:朝日新聞出版 アメリカだけが最先端のサイバー兵器を駆使しているわけではない。ロシア、中国、イラン、北朝鮮等、アメリカにとっての脅威は増大する一方だ。もちろんそれは日本をはじめとする世界のどの…

穴の町

著者:ショーン・プレスコット翻訳:北田絵里子 出版社:早川書房 町に関する本を書こうとしている作家志望の主人公が特に特徴のない町に住みつく。活気がない廃れつつある町に住み続けている人たちの閉塞感が読み手にも感染してくる。感覚的ではなく物理的…

タコの心身問題 ― 頭足類から考える意識の起源

著者:ピーター・ゴドフリー=スミス翻訳:夏目大 出版社:みすず書房 題名からもう少し軽いタッチの作品化と思い込んでいたが、かなりまじめな作品だった。著者が哲学者かつダイバーとのことなのである意味納得の文章ともいえる。内容は著者がオーストラリア…

ぱくりぱくられし

著者:木皿泉出版社:紀伊國屋書店 脚本ユニット木皿泉の二人によるエピソードや思いが会話形式で進行するパート、妻鹿さんによるエッセイのパート、デビュー作のラジオシナリオ「け・へら・へら」の3部構成。本書の題名からまさか「ぼくのスカート」に関す…

虎よ、虎よ!

著者:アルフレッド・ベスター 翻訳:中田耕治 ようやく積んでいたSF古典作品を読む。「破壊された男」でも感じたがアメコミの脚本を書いていたこともあるためかアメコミっぽい。目まぐるしい展開の復讐劇で、粗暴な主人公の性格を含める変転が激しい。ぐい…

あむんぜん

著者:平山夢明出版社:集英社 「デブを捨てに」「ヤギより上、猿より下」に比べるとインパクトに欠けた気がするが、(慣れてしまった自分がいるのか?といささか心配になる)普通に考えると相変わらずのグロさ加減に平山先生の脳をつつきたくなる。だがしか…

YMOのONGAKU

著者:藤井丈司出版社:アルテスパブリッシング 「イエロー・マジック・オーケストラ」「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」の初期2枚のアルバムと「BGM」から「テクノドン」まで合計6枚のアルバムの制作過程などを制作関係者が語った記録。YMOの散開絡み…

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

著者:デービッド・アトキンソン出版社:東洋経済新報社 先進国の中では日本が突出して生産性が低いことを様々なデータや論文を基に訴え、警告を発している。「新・観光立国論」でも成程ねと思わせる説得力を感じたが、本書も分かりやすく訴えかけてくるので…

飛ぶ孔雀

著者:山尾悠子出版社:文藝春秋 「飛ぶ孔雀」「不燃性について」の二部構成。ひとつひとつの話しは状況描写として理解できるのだが、それらが繋がる事が無くきっと理解できない大きな背景があるのだろうが掴めないもどかしさ。熱に浮かされ、気が付いたら知…

注文の多い注文書

著者:小川 洋子、クラフトエヴィング商會出版社:筑摩書房 単行本で読み逃していたので文庫が出た機会に読む。やはりもっと早く読むべきだった。小川洋子の「注文書」、クラフトエヴィング商會からの納品書、そして小川洋子の「受領書」を基本構成として、…

クジラアタマの王様

著者:伊坂幸太郎出版社:NHK出版 製菓会社のサラリーマン、人気芸能人、政治家3人が現実と夢で戦い、それらがリンクしているという掴み難いストーリー。夢のパートは数ページのRPGを思わせる挿絵というか漫画が挿入される。パラレルワールドなのかな?と疑…