吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

読書記録

わたしたちが火の中で失くしたもの

著者:マリアーナ・エンリケス翻訳:安藤哲行出版社:河出書房新社 「寝煙草の危険」が面白かったので熱が冷める前に読む。 アルゼンチンのホラー・プリンセスと呼ばれる著者だが 「寝煙草の危険」同様、自分の思うホラーという括りには収まらない作品ばかり…

江戸咎人逃亡伝

著者:伊東潤出版社:徳間書店 佐渡、花街、奥深い山で繰り広げられる逃亡劇など3篇の逃亡、追跡が描かれる。 逃亡と言えば吉村昭さんの「長英逃亡」「破獄」などが思い浮かぶ。 客観的に読む逃亡を扱う作品はとても面白いが、 理不尽に逃亡を余儀なくされる…

カーテンコール

著者:筒井康隆出版社:新潮社 25の掌編集。 うち2編は「ジャックポット」からの再収録のため既読。 表紙はとり・みきさんだった。 かつての毒はだいぶ薄まり哀愁を感じる作品多め。 「プレイバック」「カーテンコール」はまるでご自身の見る走馬灯を 共有さ…

フェルマーの最終定理

著者:サイモン・シン翻訳:青木薫 出版社:新潮社 「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」 フェルマーの残したこの言葉から数多の数学者たちが様々なアプローチで 証明を試み積み重ねられた考察を…

寝煙草の危険

著者:マリアーナ・エンリケス翻訳:宮崎真紀 出版社:国書刊行会 アルゼンチン文学として評価の高い女性作家マリアーナ・エンリケスの初読み作品。 12編のスパニッシュホラーの短篇集は期待以上だった。 生々しい匂いと湿度を感じさせる不穏さは心の中に巣…

入門 山頭火

著者:町田康出版社:春陽堂書店 勿論の事、山頭火は名前しか知らないが町田さんが解説してくれるならと入門。 実はご自身も知らなかったらしく 「物書きの看板を上げておきながら山頭火も知らないでどうする。 世の中をなめているのか。殺すぞ」 と言われた…

ハーレム・シャッフル

著者:コルソン・ホワイトヘッド翻訳:藤井光出版社:早川書房 「地下鉄道」「ニッケル・ボーイズ」に続く3冊目。 今までの作品と少しテイストが違い、ノワールなテイストが漂う。 3つの物語で構成される連作集となっている。 舞台は1959年~1964年、ニュー…

一寸先の闇-澤村伊智怪談掌編集

著者:澤村伊智 出版社:宝島社 気になっていた作家さんの初読み。 ほぼショートショートで21編収録されているため題名だけでは 思い出せないものもあるがバラエティに富んだ怖さの描き方に 引き出しの多さを感じる。 学校からのお知らせのみで構成されてい…

硫黄島上陸-友軍ハ地下ニ在リ

著者:酒井聡平出版社:講談社 「硫黄島」における激戦で日本軍の守備隊2万3千人中、生還できた人は約千人。 硫黄島の致死率は実に95%。 未だに1万人以上の遺骨が還れずにいる理由を調査する記者の熱意が伝わってくる。 遺骨の帰還事業に積極的に参加し、独…

本の幽霊

著者:西崎憲出版社:ナナロク社 ページ数(115P)が少ないわりに装幀が贅沢な作りな短編集。 図書館でみかけて気になったので読んでみたが、思っていたのと違い どの作品も劇的に盛り上がるわけでもなく、本に関わるちょっと不思議なことや 日常の断片の記…

時間のかかる彫刻

著者:シオドア・スタージョン翻訳:大村美根子出版社:東京創元社 先月「夢みる宝石」を読んだ勢いのまま同じく積んでいた本書にチャレンジ。 いきなり「ここに、そしてイーゼルに」でスタージョンの洗礼を受け途方に暮れる。 何冊も読んでいるのになかなか…

鏖戦/凍月

著者:グレッグ・ベア翻訳:酒井昭伸(鏖戦 オウセン)/小野田和子(凍月 イテヅキ)出版社:早川書房 2022年に逝去したグレッグ・ベアの追悼として「鏖戦」「凍月」の中編2編収録。 「鏖戦」は異星種族間の長い闘いをそれぞれの視点から描くが、 独特の漢…

大陸はどのように動くのか 過去と将来の大陸移動

著者:吉田晶樹出版社:技術評論社 能登半島で大きな地震が起きてしまい、改めて日本の災害の多さにため息が出る。 震災が起きるたびに心ばかりの募金と祈ることしかできないのが歯痒い。 そんな折、図書館でふと目に入ったので思わず手に取った。 大陸が今…

歌われなかった海賊へ

著者:逢坂冬馬 出版社:早川書房 前作「同志少女よ、敵を撃て」はエンタメ的に仕上げられた中に考えさせる内容が 仕込まれていたが、本作は全てにおいて考えさせる作りだと感じた。 著者が本当に書きたかったのはこちらなのではないかと。 ナチス政権下のド…

夢みる宝石

著者:シオドア・スタージョン翻訳:永井淳出版社:早川書房 長い間積んでいたが、昨年新訳版が出てしまったので慌てて読む。 久しぶりのスタージョンはやっぱりスタージョンだ。当たり前だ。 「人間以上」同様、特殊能力と人間関係の描き方が独特で ストレ…

戦国武将伝 東日本編/西日本編

著者:今村翔吾出版社:PHP研究所 ■東日本編 各都道府県から武将を選び、東日本編、西日本編として2分冊の短編集として仕上げている。東日本編は有名どころの武将から全く名前を知らなかった武将まで北海道・東北・関東・中部地方の武将が23人取り上げられ、…

著者:小田雅久仁出版社:新潮社 体の一部をモチーフに書かれた短編集。 濃度の高い言葉を隙間なく詰め込んだページの連続。 フォントサイズも小さめでページ数以上に情報が多い。 そのうえ畳み込まれる気色の悪い描写に脳みそが追いつこうとフル回転させら…

ギケイキ3: 不滅の滅び

著者:町田康出版社:河出書房新社 待ちに待った第3巻はあっという間に読み終えてしまった。 現代のエピソードを織り込んだ義経の語り口から察するに 町田康の体を借りて語っているのだろうか。 かつての勢いもなく落ちていく義経一行、 相変わらず意味不明…

金星の蟲

著者:酉島伝法出版社:早川書房 クセが強すぎる短編集のため1日1話ペースで読む。 既読は「環刑鋼」のみ。やはり面白い。けどグロい。 他の作品も読めるチャンスとばかりチャレンジするも 独自の造語や漢字に四苦八苦。 各話の扉にあるイラストと頼りに必死…

君が手にするはずだった黄金について

著者:小川哲出版社:新潮社 著者自身をモデルとしたノンフィクション風短編集という解釈でいいのかな? 大学院生、小説家、占い師、トレーダー、漫画家などを通して語られる論考は 著者自身のそれがそのまま反映されていると思え、リアル。 他人の思考回路…

幽玄F

著者:佐藤究出版社:河出書房新社 戦闘機に魅了された少年は一途に夢を追い求め、 自衛隊で天才パイロットとなるも思わぬ挫折で日本を離れる。 護国、仏教などに関する思考を重ねつつ、戦闘機への自分の気持ちに逆らわず、 冷静かつ忠実に行動する様は終始…

仮面物語: 或は鏡の王国の記

著者:山尾悠子出版社: 国書刊行会 長きに渡り封印されてきた作品をようやく読むことができた。 初期のころから山尾悠子作品の持つ幻想的な雰囲気は かなり確立されていたのだと思う。 物語を理解しきれたか?と問われればいつも通り自信は無いが、 状況や…

恐怖の正体-トラウマ・恐怖症からホラーまで

著者:春日武彦出版社:中公新書 個人的に題名の印象と内容が違っていたので途中から気持ちを入れ替えて読んだ。 恐怖を定義するのは難しいし医学的、科学的根拠を示せるものではない。 よって、著者(医学博士・精神科医)の主観で語られるエッセイというと…

八月の御所グラウンド

著者:万城目学出版社:文藝春秋 京都を舞台にした女子高校駅伝と草野球大会でのちょっと不思議な青春物語が2作品。 短篇「十二月の都大路上下ル」は方向音痴の1年生が駅伝中に見かける新撰組の コスプレ集団が現れなければ普通に爽やかな作品。 中編の表題…

剣、花に殉ず

著者:木下昌輝出版社:KADOKAWA 宮本武蔵の最後の相手とされる雲林院弥四郎(うじい やしろう)と 熊本藩主細川忠利の友情がメインの話し。 忠利を守りながら独自の剣の道を求める弥四郎は 戦場で出会った宮本武蔵といずれ剣を合わせることを希求している。…

夢分けの船

著者:津原泰水出版社:河出書房新社 津原泰水の最後の作品ということもあり、じっくり読み込んだ。 上京して音楽の専門学校に通い始めた主人公。 彼を取り巻く友人や知り合いになった人々との交流が描かれるが、 そこにホラーを思わせるテイストが加わり、 …

教養としての歴史小説

著者:今村翔吾出版社:ダイヤモンド社 題名や出版元からビジネス書として読むことを意図しているようだが、 特に堅苦しくもなく、歴史小説をこれから読んでみようかなと思う人には 参考になるでしょう。 歴史小説と時代小説の違いを厳密に考えたことが無か…

災害の日本近代史-大凶作、風水害、噴火、関東大震災と国際関係

著者:土田宏成 出版社:中央公論新社 20世紀初期に起きた自然災害は日本のみならず世界中で起きていた。 災害の多い日本は海外から多くの援助を受け、海外による外交的意義に気付き、 徐々に海外に対する支援を他国同様政治化していくようになる。 かなりの…

虫とけものと家族たち

著者:ジェラルド・ダレル翻訳:池沢夏樹出版社:集英社 イギリスからギリシャ・コルフ島に引っ越してきたダレル一家の物語。 自然に恵まれ、様々な動物や昆虫に接する生活を送る少年の視線で語られる日々の 何と幸せなことか。 ヤモリと巨大カマキリの戦い…

ぼくはあと何回、満月を見るだろう

著者:坂本龍一出版社:新潮社 「音楽は自由にする」以降から晩年の坂本龍一の記録。 淡々と語られる闘病生活、そして音楽への思いが柔らかくも熱をもって伝わってくる。 まさしく真のアーティストとはこういう方の事を言うのだろう。 政治への姿勢、よく知…