吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

蘆屋家の崩壊 --津原泰水

「BOOK」データベースより引用
定職を持たない猿渡と小説家の伯爵は豆腐好きが縁で結びついたコンビ。
伯爵の取材に運転手として同行する先々でなぜか遭遇する、身の毛もよだつ怪奇現象。飄々としたふたり旅は、小浜で蘆屋道満の末裔たちに、富士市では赤い巨人の噂に、榛名山では謎めいた狛犬に出迎えられ、やがて、日常世界が幻想地獄に変貌する―。鬼才が彩る妖しの幻想怪奇短篇集。

 

津原作品は「ブラバン」に続いて2冊目です。
多分「ブラバン」にこそ共感するはずなのになぜか乗り切れず、距離をとっていた作家さんなのですが、幻想的な本作を読んで目が覚めました。
本屋さんで見かけたとき「なんだよアッシャー家の崩壊のパロディーかい?」と思いつつ、「ところでアッシャー家の崩壊って読んだっけ?」と考えてるうちにうっかり購入。8編の短編集です。


「反曲隧道」
主人公「猿渡」と、怪奇小説を生業とする「伯爵」と呼ばれる男の出会いが描かれる。
中古車にまつわる不思議な話しですが、と言うか中古車を買おうと思っている人が読むと困惑しそう。
読点が少ない文体でリズム感があって妙に読みやすく、それでいて力が抜けた二人のキャラがすっと入ってくる感じ。短い作品ですが、導入作品としては好印象でした。

 

「蘆屋家の崩壊」
昭和っぽい雰囲気で適度にまとまった話しで楽しめました。
ただ、結局のところ「アッシャー家の崩壊」を読んだかは思い出せず。読むしかなさそうです。って言うか、久しぶりにポーを読みたくなってきました~
(全然感想になってませんが。。。次行ってみよう)

 

「猫背の女」
これは怖い。五十嵐作品の「リカ」を思い出します。いや、リカよりもリアルさを感じます。
この作品で「猫背の女」が現れる場所が何箇所かありますが、うちの近所も登場。
おかげで読んだその日の夜、私の夢にまで登場!!目が覚めてほっとしました。。。でも、面白い作品です。

 

「カルキノス」
高足蟹って、水族館で見た事あるけど、大きいですよね。大きいやつといきなり出会ったら怖いっすよね。
だから何?と聞かれると困りますが、立ち上がると2メートルとかあるとやはり怖いですよね?

 

「超鼠記」
猿渡が寝泊りしているビルに、鼠駆除業者「東京都環境美化協会」がねずみの駆除にやってくる。
そしてその日から突然現れた不思議な少女。不思議で哀しくて、そしてなんともいえない気分にさせられる作品。

 

ケルベロス
これも昭和っぽい雰囲気。猿渡たちが訪れた田舎町にある神社には、狛犬とは別にケロベロスも2体置かれていた・・・
勢いをつけて読んでしまうと、ラストの意味を理解できずに終わってしまいそうです。
読み終わると切ない気持ちになりますが、よくできた作品です。
 
「埋葬虫」
猿渡が偶然、かつての同級生に出会う。マダガスカルから帰国したあと、同行していた後輩が死にそうで看護しているらしい。
家族にも知らせるなと頼まれ、自宅で看護しているらしいのだが・・・
これもよくできた話だなあと思いました。
虫を食べる人が出てきます。虫に弱い人にはきついです。
現実にはないよなあ、と思いつつも変にリアル感があります。
ホラーっぽいのですが静かで、淡々としている印象もあります。でも気持ち悪い。

 

「水牛群」
”頭蓋の中に誰もが持っている、モンブランのブルー・ブラック・インクみたいな脳内恐怖物質”なんて例えがなんか凄い。
ほとんど無職状態だった猿渡が就職したがうまくいかず、不安定な状態に。
妄想なのか幻覚なのか現実なのか・・・判別のつかない世界で焦燥を募らせ絶望している猿渡が描かれる。伯爵に支えられ、絆が強まり、本格的にコンビが始動するかのような終わり方。
最初はつかみどころのない話だったが、幻想世界を共に味わうような感覚でした。

 

 怪奇小説家であり伯爵の言葉が印象的でした。
「・・・胸の底にしまって一度忘れて、それがいつか自分の物語として甦ってきたとき、自分の言葉で描きなおすんです。そうして始めて奇跡も怪異も、生じた瞬間と等しい力を持ちます。・・・」

実はあまり期待していなかったのですが、よかったです。
一番好きな作品は「ケルベロス」、一番怖いのが「猫背の女」、一番気色悪いのが「埋葬虫」という感じでした。
暴力的な怖さではなく静かにゾクゾクするような怖さ、それでいてクスリとさせてくれるキャラクター。
ブラバンのような世界より、こっちの世界を描く津原作品のほうが好みみたいなので、他の作品も読んでみようと思います。
あと食べ物の描写が、きっと津原さんてグルメなんだろうなあって思わせます。


結局、アッシャー家の崩壊を読んだか思い出せないので、どのみち忘れているのであれば読むしかなさそうだなあって思いながら書店に行ったらポーが平積みされてました。
「黒猫・アッシャー家の崩壊 ポー短編集I ゴシック編」という題名の新刊。。。こんな時は読めって啓示ですからさっさと購入。黒猫も再読したかったのでちょうど良かったです。