吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

綺譚集 --津原泰水

今月、着々と読み進めていた作品ですが、この作家さんは凄いなあ。
独特の妖しさとグロさとエロスは、一気に読むよりじっくりと読む短編集だと思う。
唐突に始まり、唐突に終わる。それも考えが及ばない言葉でいきなり違う世界に持っていかれる感覚に翻弄されたり感嘆したり。切り口の全く違う作品たちはショートショートとも言える作品もあり、キレがあり、新鮮な驚きで彩られる。
15作品はどれも印象的なのだが、「玄い森の底から」「アクアポリス」「夜のジャミラ」「赤面假傳」「ドービニィの庭で」「隣のマキノさん」は特に印象的。



「夜のジャミラ
いじめで死んでしまい学校の中をさまよう「ぼく」は合体をくり返しながらジャミラになる。
その境遇を楽しみはじめる「ぼく」が、無邪気に復讐を語り笑う様に気味の悪さを感じる。
ホラーとしては決して怖い話しではないが、締め方がいい。

 

「赤假面傳」
旧字体で書かれているためそれだけでモダンな時代背景を感じさせる。
面白い作品だと思うがこの漢字は、なんて読むのかな、と頭の中で新漢字に置換してから再度読み直すことを繰り返したため読みにくかった。
赤、仮面、死というキーワードからポーを思い浮かべる。雰囲気もポーの作品との類似を感じた。

 

「玄い森の底から」
本書中、最も面白いというか凄いなあと思った作品。面白いとか好きとか言いにくい作品だがもっとも印象的な作品。まず句読点がほとんどなく、かと言って流れるような文章でもなく自分勝手に強引で、それでいて不安定な文章になったりするあたりは、心理状態を言葉ではなく文体で表現しているかのようだ。
一担イメージが湧いてくるとゾクゾクしてくる。ラストの1行でもゾクゾク。

 

「アクアポリス」
事故で死んでしまった友達を、誰にも秘密にしたまま海に流した子どもたちは、その友達が何事もなかったかのように登校してきたことに驚く。
彼らはいつものように学校生活を送るが、、、、
子どもたちの方言(広島弁?)がほのぼの感を漂わすせいもあるが、江坂遊が書きそうな作品とも感じた。

 

「約束」
タカシとエリカは16歳の時、夜の観覧車で出会った。そしてある約束をした日、タカシは死んだ。
ラストの2行で思い切り違う世界を見せつけられ、心の中で「え?何?どうなってんの?」と叫んでしまった。。。。ある意味最も衝撃的。

 

「ドービニィの庭で」
ゴッホが晩年に描いた作品で実在する絵を題材にした作品。
絵に取り憑かれたかのように自分の庭を絵とシンクロさせようとする男とそれを実現するために翻弄され命を削り続ける登場人物たちの話しは本編中一番長い作品だがクリエイティブかつ虚無感を漂わせ、読み手を最後まで惹きつける。

 

「隣のマキノさん」
近所に住んでいるマキノさんの家は有刺鉄線で囲まれ、地雷を埋めているらしい。
主人公とマキノさんの会話が不条理で面白い。ショートショートなんで説明できません
が、やけに印象に残る。



現実なのか夢なのか、境界線が曖昧な耽美に彩られた世界をさまよわせてくれる津原さん。
どんな構造をした頭なのか覗いてみたい。
解説にあったが、津原さん自身「一冊だけ残せるなら、これ」らしい。
津原作品は三冊目だが、その言葉には納得する。
個人的には「ブラバン」から入った作家さんだが、この路線の津原さんのほうが格段にいい。
ちなみに津原さんが小説を書くきっかけになった作品はジョナサン・キャロル
死者の書」とのことでした。
なるほど。