吉祥読本

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少年トレチア ::津原泰水

文庫版の表紙は少年というより青年が描かれている(萩尾望都)ので、内容のイメージがあまり伝わってこなかったが、読み始めは不気味で思っていた以上にグロテスクで嫌~な予感が。。。
このペースでこの長編が続いたら辛いかも、と思うような展開です。
子供の間で語り継がれる都市伝説というのは昔からあるが、こんなグロさはなかったはずだ。

 

郊外の新興住宅地「緋沼サテライト」が舞台。
「キジツダ」(「期日だ」)という台詞と共に子供たちが次々と残虐な遊びを繰り返す。
動物を残虐に殺戮し、飽き足らずに対象が人間にまでエスカレートしていく様は気持ちのいいものではない。
ましてや彼らはそれを楽しみ、全て「トレチア」がやったことにしてしまう。
無垢な子供たち、言葉を変えれば責任感のない無邪気さで残酷な行為に及ぶ子供たちには寒気を覚える。
そしてその子供たちが大人になったある日、今度は自分たちが狙われる事になる。
「期日だ」
その言葉に覚えがある者たちは戦慄する。。。

 

トレチアの話は中盤から違う話へと変容していく。登場人物が多く混乱するし、
摩伽羅(マカラ)という架空の魚が出てくるに至って、これが「トレチア」とどう繋がっていくのかさっぱりわからなくなる。
とっ散らかってきたかなあと思いながらも終盤になって「緋沼サテライト」が崩壊していく大きな展開を迎える。こんな着地点だったなんて。。。。。

 

マカラの話は必要なかった気がするし、それを削っても最後に繋げることはできたのではないでしょうか。
見た目に察知できなくても本能的に感じる足場の不安定さに、無意識的に気持ち悪さを感じたことはないだろうか。その不安定さが長い時間をかけて精神を圧迫し、その圧迫感から開放されるために残酷な行為を無意識にしてしまう、という流れであれば、敏感な子供たちによる残酷な集団行動ということで意味づけが出来得るのではないかと思いました。


巻末の「附記」に津原さんが書いているなかで、摩伽羅の知識を伝授されていた猿渡女史につい弱気な言葉を吐露してしまっときの女史の言葉が印象に残った。

 

   あら津原さん、世の中に無意味なことなんかひとつもないの。
   それとも全部、なにもかもが無意味かのどっちなんだから、
   安心して、今日はもうお休みなさい。


猿渡といえば「蘆屋家の崩壊」で出てきた名前。。。。まさか附記も作り話か?(笑)



読後に三浦しをんさんの書評を読み直してみた。正直この作品の感想は難しい。
しかし改めて思った。同じ作品を読んでこうも桁違いに表現できるとは、、、、プロは凄いと。