吉祥読本

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11 eleven ::津原泰水

津原泰水という人は自分の頭の中に確固たる世界観があって、その中で浮かぶ物語を自分の思い描いたまま自由に表現しているのでしょう。
読者は当然この世界観を共有しているよね?とでも思っているかのように説明がほとんど無く、ギリギリまで研ぎ澄ました言葉で描かれているので、初読では展開が理解できないことがよくある。
それとも実は誰もが持っていて気付かない闇を刺激しているが故に理解してはまずいという安全装置が本能的に稼動しているのかもしれない。

 

11編の様々なタイプの作品が揃っているので津原さんがどんな作品を紡ぎだすのかを知るには「綺譚集」とともにもってこいでしょう。
ただしカテゴリーを越えた作品が多く、無理やりカテゴライズしてはいけない。
この短編集は研ぎ澄まされたがために、大吟醸のような深みを感じる。
原酒のような「綺譚集」がトータルでは好きだが、まあどちらも好きということで(笑)

 

今回の11編の中で最も素晴らしい作品が「五色の舟」「テルミン嬢」「土の枕」の3編。
作品の雰囲気はそれぞれ違うけれど、この3編を読めただけでも嬉しい。
勿論他の作品がつまらないという事ではなく、この3編が突出して響いてきたという事です。

 

「五色の舟」のような幻想的な世界観は津原さんの真骨頂と言える。半人半牛の怪物、
件(くだん)が出てくる話だが、スタージョンの雰囲気を感じさせる。
そして「テルミン嬢」を読んで「バレエ・メカニック」が理解できなかった理由がみつかりました。
ミジンコが反応しなかっただけなんだなって(笑)
何を言っているのか理解できないでしょうが、「テルミン嬢」を読めばミジンコが何か理解できるので興味があれば読んでみてください。途中でSFだったんだなあって気付きました。
そして「土の枕」。
これは広島で生まれた津原さんのDNAを感じるような作品で、つい涙が出そうになりました。
他の作品とのギャップの大きさに驚くが同居していても違和感を感じさせない。



津原さん自身による装丁は、四谷シモンさんの人形の顔のアップで、ゾクッとする妖しさに痺れます。


作品リスト
 「五色の舟」「延長コード」「追ってくる少年」「微笑面・改」「琥珀みがき」
 「キリノ」「手」「クラーケン」「YYとその身幹」「テルミン嬢」「土の枕」