吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

2017年10月の読書リスト

近所の図書館が9月から来年の3月一杯まで改修中。臨時窓口はあるが、なんて不便なんでしょう。
他の図書館に行かないとリクエストもできず(読む本みんな買えればいいんですけどね)、まずは手元にある本を優先的に読めってことか。



 2017/10/5読了
 /アメリカ最後の実験
 宮内悠介
 宮内作品としては読み易い。多少都合の良い展開もあり、ちょっとカッコつけた
 音楽小説かと思いながら読んでいたが読み終わってみるとカテゴライズの難しい
 内容だった。
 音楽と対峙する人たちの苦悩とアメリカに薄っすらと漂う倦怠感が作品全体に
 ミックスされた世界観は、本来ならば重そうに感じられそうだが、
 嫌いではないしどこか浮遊感もあって悪くない。
 主要キャラクターの描かれ方がもう少し深いと良かったのだが、
 何より残念だったのが「パンドラ」の音が聞こえなかったこと。
 想像力が足りないだけかもしれないが。



 2017/10/8読了
 ::ソビエト連邦史 1917-1991
 下斗米伸夫
 ソビエト崩壊後に世に出た資料を加味しながらソビエト連邦の創生期から崩壊までの
 期間を概説している。
 奇跡的に上層部に存在し続けたモロトフにスポットを当てながら知る連邦史は興味
 深く初めて知ることが多いのだが、この体制下で政治的に粛清された人数が
 半端じゃないことに驚かされる。
 淡白な説明で深く掘り下げられたものでは無いが、今後知りたいことはこの本を
 基本にしていけそう。
 現在、日本にとって憂鬱な存在である隣にある大国と重なる気がしているのは、
 考え過ぎなのだろうか?



 2017/10/13読了
 /吸血鬼
 佐藤亜紀
 時は19世紀。ポーランドの片田舎に夫婦で赴任した役人ゲスラー、詩人にして
 大地主クワルスキ等、登場人物ひとりひとりがクセが強く、舞台となる村が
 何とも陰鬱な雰囲気に覆われ、いつ何が起きてもおかしくない不安感が漂う。
 題名から勝手にイメージしていたホラーらしさは無かったが、吸血鬼とは?
 という疑問は納得がいく展開だった。
 村の訛りを読むのに苦労したが、この雰囲気を無理なく脳内で再現させてくれる
 描写力は流石。
 日本の作家が本作を書いていることに改めて驚かされる。



 2017/10/16読了
 /銀翼のアルチザン 中島飛行機技師長・小山悌物語
 長島芳明
 かつて日本のトップメーカー中島飛行機を技術的に牽引していた技師、小山悌の
 ノンフィクションノベル。
 SUBARUの前身でもある中島飛行機の当時の社風が良くわかる。
 日本の戦闘機はパイロットの命を犠牲にしていた言われてもいたがパイロットの
 命を重視した上で技術的課題を乗り越えようとしていた技術者達の矜持に感服。
 創業者中島知久平の戦後まで見据えたビジョンの凄さ、若き糸川英夫の途轍もない
 キャラクターなども面白い。
 自分の設計で多くの犠牲者が出たことから功績を語らなかった小山の姿勢に
 技術者魂を感じさせられた。

 

 
 2017/10/20読了
 /動物になって生きてみた
 チャールズ・フォスター
 題名通り動物のように生きてみたナチュラリスト(知識は凄い)の語りは
 繰り返される隠喩やら自然や動物の擬人化のオンパレードであまり頭に内容が
 入ってこなかった。
 想像力が豊か過ぎてコミュニケーションがとりにくい人っぽい。
 (あとがきで自覚してることがわかった)
 内容的には興味深いものなのに、結局ミミズの味に関する記述が面白かったなという
 記憶しかないのが残念。



 2017/10/24読了
 /会津執権の栄誉
 佐藤巖太郎
 四百年以上続いた会津の名門、芦名家において「会津の執権」と言われる家臣筆頭の
 金上盛備をメインとした連作集。
 吉川永青さんの「時限の幻」を読んでいたので金上盛備には良いイメージを
 持っているが、本作では芦名家と伊達家や佐竹家との関係、金上盛備に関する説明が
 少なめだったので、もう少し情報が欲しかった。
 地域性なのか、どこかが揉めると第三者が調停する「中人制」というシステムが
 あったとは知らなかった。
 決戦!シリーズで読んだことがある新人作家さんだが、文体が好きなので
 要チェック。



 2017/10/29読了
 ::キャパへの追走
 沢木耕太郎
 キャパの十字架では「崩れ落ちる兵士」を丹念に追っていたが、本作は他の写真を
 現地まで行って同じ構図で撮影する試みを長年かけて正に追走している。
 多くの味わい深い写真に思いを馳せるだけではなく、例え当時とは違っていても、
 現地ではないとわからないより深い思索は沢木の真骨頂だろう。



 2017/10/29読了
 ::クリスマスを探偵と
 伊坂幸太郎
 絵本だけあって、さくっと読了。もっと絵が多いのかと思っていたのだが。
 ドイツ統一の話しが出てきたので時代背景が何らかの伏線として関係ある内容かと
 思えば、伊坂が学生の頃に書いた作品が基になっていたとのこと。
 ちょっと構え過ぎたか。
 探偵の主人公と、公園で出会った男との視点の切り替えを楽しむ会話が伊坂らしい。



 2017/10/31読了
 ::服従
 ミシェル・ウエルベック
 2022年、極右政党と穏健イスラム政党による大統領選の結果、
 フランスにイスラム政権が樹立される。
 大統領選挙前後こそ緊迫感があったが、あっさりと静かに体制が変わるさまが
 妙なリアル感を伴って描かれている。
 日本人の感覚だと政治に宗教がここまで劇的に影響を与えるのだろうかと
 思ってしまうが、むしろ日本が特殊なのかな。
 インテリ層の弱さがもの悲しく、笑えないコメディのよう。
 「文明は暗殺されるのではなく、自殺するのだ」



9冊読了。