吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

ペニス

著者:津原泰水
出版社:早川書房

 

津原作品を読み続けてきたが、この作品に限っては随分前から読むか読むまいか悩ましい存在だった。
古書店でも見つけることはできなかったが、図書館にあることは知っていたので、
その気になればいつでも借りられる。
でも題名が。。。年甲斐もなく気にしてしまって(笑)
そんなこんなで文庫で復刊したので、もう読むしかないかとチャレンジ。。。


東京都が管理する恩賜公園の管理者である主人公。
ある日、長年明けたことが無い管理室のロッカーに少年の死体があることに気が付く。
それを起点に様々な妄想と現実と過去が入り乱れ、もう混沌という言葉しか浮かんでこない世界観に振り回される。

管理人の心象風景と理解しがたい行動を題名が象徴しているのだろうが、
津原さん自身の全てをさらけ出している、とも言える。
津原泰水名義の作品のあらゆる要素が暴力的に詰め込まれていることがよくわかる。

「妖都」「綺譚集」「11 eleven」で見せた妖しさや驚愕の展開が荒っぽく描かれ、
死体の扱いに「たまさか人形堂シリーズ」を思い起こさせる。
「幽明志怪シリーズ」や「エスカルゴ兄弟」で披露される食事や酒の蘊蓄、
そして音楽に関する蘊蓄などほとんどすべての要素が詰め込まれているのだ。

段落を無くして畳みかけるような文体、ひらがなの多用等、場面に応じて様々な実験も為されている。

更に付け加えるならば津原泰水の描くエロスやグロさはヌメヌメとまとわりつくような高めの湿度と刺激臭を感じさせ読んでいて疲れるが、本作ではそんな描写が特に多くて気付くと眉間に皺が寄っていた。

と、いうことで全ての要素が詰まっているならこの一冊で津原さんを知ろうとすれば、至るところで痛い目にあうだろう。
津原作品に興味がある人は、くれぐれもこの作品を最初に選ばないほうがいい。
何作か読んでなお、原点(デビュー作ではないが)となる作品が知りたいと思ってから読まないとかなりの割合で投げ出すと思われる。
解説の大森望さんが言及しているように「奇書」であることは間違いないのだから。

ただし、これを最初に選んで理解できた人、面白いと思った人は是非、津原作品を読み漁るべし。
そしてできれば個人的に大好きな「綺譚集」「11 eleven」に関するご感想をこっそり(何故?)教えていただきたいと思うのである。


2020/2/12読了