吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

息吹

著者:テッド・チャン
翻訳:大森望
出版社:早川書房

 

図書館で借りようと思っていたんですがコロナで休館しっぱなしなので購入しました。
噂に違わず買って損のない作品でしたし、おかげでじっくり読めました。

第二短編集ですが、第一短編集の「あなたの人生の物語」を読んでいないのはここだけの話し。
寡作なので次はいつ出るのかわかりませんが、それまでには「あなたの人生の物語」を読んでおきましょうか。

9編、いずれの作品も楽しめるし水準の高さを感じます。
あとは自分の知的水準が上がればより楽しめるはずですが、それは諦めます。
「商人と錬金術師の門」のように過去と未来を往来できれば何とかなるかもしれない?
いやいや本作を読むとそんな下世話なことを考えてる場合じゃないのだよ。

今は過去に戻って「志村、後ろ後ろっ!!」と叫びたい。。。


気を取り直して印象に残る作品について。

「商人と錬金術師の門」は「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」で既読だったが
アラビアンナイト風な雰囲気を含めてやっぱり好きな作品。
10年後くらいにもう一回再読しても、きっと楽しめるんじゃないかな。

表題作の「息吹」はちょっと適当な言葉が浮かばないが、
読んでいるときにふと「ディファレンスエンジン」を思い浮かべたせいか
懐かしく静かなスチームパンクっぽさみたいな雰囲気を感じた。

「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」に関しては
どんなに新しいシステムやプラットフォームができようが、
それをきっかけに急速に技術が進歩する様や愛着のあるレガシーとの
付き合い方をどうするか、身につまされる。
例えばレコードやVIDEOなどの媒体や「AIBO」がどのような経過を辿ったかを考えると
わかりやすいかな。

取り上げた3編は雰囲気のあるSF感があるが、全ての作品に共通するのは哲学的な内容が多いということ。
その中にあって「オムファロス」はちょっと特異な作品で、真剣に読んでいいのか正直なところ悩む。
ユーモアSF?という分野とか真面目なラファティとかそんな感じかな。
意外な発想の面白さといい、好みの作品です。

もちろん、他の作品も面白いです。
ちょっと品の良さや真面目さを感じる作家さんでした。


2020/3/29読了