吉祥読本

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竜二 ―映画に賭けた33歳の生涯

著者:生江有二
出版社:幻冬舎


積読本から掘り出した。
これも10年前くらいに古書店で手に入れたままになっていた。
映画「竜二」はすっかり古い作品(1983年公開)だが、とても大好きな作品だった。
その映画を制作し、主演した金子正次の評伝。
何故今まで読まなかったのだろう?

ビデオデッキが壊れて久しいため、今は観ることができないが、
テレビ放映を録画したビデオは探せば出てくるはずだ。
何度観たことだろう。

新宿を舞台にしたヤクザ映画だが、派手な部分がほぼ無く、
むしろヤクザのリアルな日常を描き、ふと堅気に戻ることにした男が
結局元の世界に戻っていくという説明すればそれだけの映画だ。

主演の金子正次が脚本を書き、ドンパチの無いそれまでのド派手なヤクザ映画と違う
誰もが持ち得るような葛藤や焦燥を不器用に演じる姿が今でも思い起こされる。
ちょっと切ない。

熱い思いをもって取り憑かれかのように自主映画を作り上げる金子の姿が
周辺にいた人たちの口から語られ、金子の思いが「竜二」に確実に
反映されていることがよくわかる。

読みながらずっと萩原健一の「ララバイ」が頭の中に流れていた。
「竜二」で使われていた主題歌だ。
内容と歌が見事にシンクロしている。

いい映画だと思うが、自分の周りにいた女性たちにはあまり評判は良くなかった。
勝手な男の生きざまに共感できないとのこと。
そりゃそうか。
妻子を捨てて元の世界に戻ってしまうのだから。

それにしても関係者が語る彼の性格や行動力には呆れる半面、
羨ましいくらいの熱量だ。
まさしく命を削りながら映画作りに奔走し、ようやく夢が叶った途端に
亡くなってしまうが、その才能は他の人たちに引き継がれ、映像化されている。

川島透の初監督作品でもある。
永島暎子北公次佐藤金造が出演していて、それぞれが味のある演技をしていた。
その他に銀粉蝶笹野高史が出ていたっけ。

友人である松田優作に看取られ、その後、松田優作も同じ日に亡くなっている。
たった一本の映画を作り、それが遺作となり、伝説となった。
何と劇的な男なのだろう。

地味で粗削りな映画だったかもしれない。
でも、多分彼の思いや熱を映像から感じ取れたんだと思う。
本書の構成にも多少粗削りな部分を感じるが、
映像や主題歌を思い浮かべながら気持ちよく読めたんだから、良しとしよう。
懐かしい気持ちで読める本など、そうそう無いしな。
いつか改めて、酒を飲みながらしんみり一人で観たいと思う。


2020/5/27読了