吉祥読本

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子どもたちの階級闘争 -ブロークン・ブリテンの無料託児所から-

著者:ブレイディみかこ
出版社:みすず書房

 

「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」で書かれていた時期より前に
イギリスの無料託児所で保育士として経験したこと、感じたことが綴られる。
「底辺託児所」と本人は称しているが、その託児所に預けられる子供たちや
親たちの置かれている境遇はとても先進国イギリスのものとは思えない。
格差社会とはかくも厳しいものなのだろうか。
個性豊かな子供たちに接する粘り強さや何事もポジティブに捉える著者の
ユーモラスな語り口に助けられるが、あぶりだされる社会の問題は重い。

薬や酒に溺れる親の生活がダイレクトに子供へ影響を与えてしまう様に心が痛む。
そして多くの場合、次の世代にも引き継がれてしまう。
負のスパイラル。

ところがそんな中にも明るい未来を感じさせる萌芽が見えるのは
そんな環境の中でも強い意志を持つ子供たちとそれをサポートする
人たちがいるからだろう。

日本とイギリスの仕組みのどちらが正しいのかはわからない。
イギリスの制度は色々な問題を孕みながら、そして自分と他者が分裂しながら、
苦悩しながら先に進もうとしている。
結果、どのようになるのかは誰にもわからないが、それでも希望が見える気がする。

翻って日本はどうか。
本書では、イギリスと日本で比較すると一人の保育士が面倒を見る子供の数に
圧倒的な差があり、いかに日本の保育士の負担が大きいかがわかる。
保育の現場の過酷さは耳にするが、やはり日本は何かがおかしい。
どの分野でもそうだが、日本の硬直化した制度がこのまま変わらないと
本書で描き出されたイギリスどころではない危機に直面することだろう。
いや、もう、そのフェーズにどっぷり嵌っている気がする。
現場に任せっぱなし、責任を押し付けっぱなしで見て見ぬふりをしている
場合ではないことを痛感させられた。


2020/7/24読了