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独ソ戦 絶滅戦争の惨禍

著者:大木毅
出版社:岩波書店

 

クレフェルトの「補給戦」でも言及されていたと思うが(曖昧だが・・・)、

ドイツ軍の兵站に対する考え方がより具体的に示されていて理解が深まった。

またドイツとソ連ヒトラースターリン)の悲惨な戦争が

どのようなイデオロギーのもとに展開されたか、

両国の戦争に対する捉え方は分かり易い。


いささか細か過ぎる作戦の数々の説明はそこまで必要か?とも思うが、

緻密そうなドイツ軍が短期決戦でソ連を屈服させようと兵站を無視して

一斉に広大なソ連に攻め込み、現地で収奪を繰り返しながら絶滅戦を展開する。

案外緻密な戦略を持っていたソ連が独裁的な指導者(レーニン)の判断により

熟練した指導者たちを粛清してしまい、結局苦戦を強いられたりしながらも

粘り強く耐え忍び長期戦に持ち込んだりと、独裁統治の欠点がお互いに露呈し、

この戦争をより悲惨にしてしまった。


「通常戦争」「収奪戦争」「絶滅戦争」と徐々に戦争の性質が変わっていく流れを

淡々と説明している点はわかりやすい。

無謀な戦争という点では日本も道を誤ってしまったが、

過去の戦争の経緯を冷徹に検証することは今後起こり得る問題に対処するためには

大切なことだろう。


それにしてもソ連が米英の思惑を逆手に独ソ戦開始時以上の領土を

手にしようとする貪欲さや狡猾さには驚かされる。

日本の外交に足りない強かさは見倣うべきとすら思う。

外交大国の肝は矛盾をいかに強引に正当化していくか、なんだろうな。