吉祥読本

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白い病

著者:カレル・チャペック
翻訳: 阿部賢一
出版社:岩波書店

 

戦争の足音が間近に迫っている中、「白い病」と呼ばれる伝染病が流行し始める。

50歳以上が罹患し、死んでいくという設定だが閉塞感漂う若者たちからすれば

自分たちにチャンスが到来してくるだろうと密かに期待し、

年代間の断絶が見えてくる。

そんな時に特効薬を開発した町医者が登場するが、

医者は特効薬の提供を求める戦争を推進してきた指導者たちに、

ある条件を突きつける。


登場人物はいたって少ないうえ、戯曲という体裁のため

あっという間に読めてしまう。

コロナ禍に出版された作品ではあるものの、伝染病(白い病)が主題ではない。

第二次大戦直前に書かれたこの作品を昔のことだと割りきれない、

普遍的なテーマが明確に提示されている。


戦争直前、戦争を推進して来た人たちが白い病に罹患することで

生じる葛藤、市井の人々に覆い被さる絶望と焦燥、

戦争推進派の指導者の子供たちが次の時代の

担い手になりそうな仄かな希望、

平和を望む医師と戦争推進派の対立と苦悩、

更に対立する彼らを呆気なく飲み込んでいく真の悲劇に、

冷徹な現実を見せつけられる。


自分に向けられた課題をどう処理すべきか?

改めて考察と実践の日々が始まります。