吉祥読本

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囚われの山

著者:伊東潤
出版社:中央公論新社

 

八甲田雪中行軍訓練を題材としたミステリー仕立ての作品。
伊東潤さんの現代ものは初めて読みました。
八甲田雪中行軍を描くパートと、当時の謎を特集記事にして
雑誌に掲載しようとする出版社を描く現在のパートが交互に描かれる。

八甲田雪中行軍の描写に関してはなかなか読みごたえがあった。
が、現代パートはちょっと。。。
伊東潤の現代作品は何となく避けていたのだが、今後もいいかな?

八甲田雪中行軍に関する謎とそれを隠ぺいした軍部の闇に関しては
本書の肝にあたるので触れないが、
以前読んだ「八甲田山 消された真実」(伊藤薫 著)のような感情的な
ノンフィクション作品からするとさすが読み易い。
行軍に参加していた人たちの人間ドラマも誰かに責任を転嫁するわけでは無く、
それぞれの人物がそれぞれの立場で格闘している姿が描かれ
バランスは良かったと思う。

それに比べて現代版の展開は別の人が書いたのかと思うくらい。
設定上、現代版があるのは仕方がないとして、女編集長とか妻の話しは
必要性を全く感じなかった。
ミステリー仕立てだったので女編集長と妻は結託して主人公を
貶めようとしていたのかと予測していたが、読み終わった途端に笑いそうに。
マジか。これでいいのか?
違う意味で主人公も囚われてましたってことが言いたいのかもしれないけど、
がっかり。
あと、地元のガイドさん絡みの真相も何だかなあ。
八甲田雪中行軍に絞った作品にしてくれればきっと読み応えある作品に
なっただろうに残念。
新田次郎の作品に近づかないように意識しすぎた結果か。

ディアトロフ峠事件にも触れられていたので、
先延ばしにしていた「死に山」をやはり読もうかと思い始めているところ。