大学進学を夢見ていたアフリカ系アメリカ人の高校生エルウッド。
ところが無実の罪で少年院に送られてしまう。
暴力と虐待の日常に放り込まれたエルウッドはそこで出会ったターナーと
友情で結ばれることになる。
が・・・
「地下鉄道」の中で描かれた人種差別という点では通底するものがあるが、
ファンタジックな場面はなく、淡々とした文体のため、
酷い描写であってもまるで夢の中のように茫洋とした印象となる。
少年院内でエルウッドが殺されると察知したターナーは、二人で脱走する。
本書は舞台となる少年院ニッケル校の跡地から複数の死体が
発見されるところから始まるが、これは実在した少年院であり、
実際に多くの遺体が発見されているという驚愕の事実がある。
それも職員らの手によって葬られているのだ。
人種差別問題の根深さは、この少年院で起きた事実のすべてを
未だに解明できない点にあるが、
まさにその事実を抑えた文体で簡潔に表現したことで
読み手に訴えかけるものの重さがひしひしと押し寄せてくる。
過去を振り返る視点と当時の視点が効果的に切り替わり、
何とも言えないラストの種明かしには驚かされるが、
読み終わるとこの作品の構成の巧妙さ、
訴えかける内容の大きさにため息が出る。
「地下鉄道」とはまた違う深みがあるが、本作も考えさせる作品。