著者:筒井康隆
出版社:新潮社
短編小説集だと思っていたが、筒井康隆自身を語るエッセイみたい。
自身の心情と小説(妄想)が入り乱れ、自由気ままに爆発している。
韻を重ねながら機関銃のように羅列する言葉たちの小気味よさと面倒くささは
筒井康隆の独壇場といえる。
そしてその言葉たちに混ぜられている毒に痺れる。
語呂合わせでただ遊んでいるようで、さりげなくかつ容赦のない社会風刺を
効かせているのだから油断ならない。
日本のラッパー諸君! 筒井康隆作品でキメてみてはいかがだろう(笑)
印象的だった作品をいくつか。
第二次大戦における兵士たちの過酷な状況を語る「南蛮狭隘族」は、
怒る人や嫌な思いをする人がいそうだが、この内容をこの表現で
書き上げることができる人は筒井康隆を於いていないのではないか。
手放そうとした「花魁櫛」が値打ちものとしてあれよあれよと値を上げていくことで
妻が豹変していく様が描かれる「花魁櫛」は、まさか奥様のことじゃないよね?(笑)
そして筒井康隆の亡くなった息子さんへの気持ちが淡々と描かれる「川のほとり」は、
ただただ切ない。
御年86歳、迸る言葉を操る筒井康隆に、ただただ脱帽なのだ。