吉祥読本

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2010年代SF傑作選1

編集:大森望/伴名練 
出版社:早川書房


大森望、 伴名練が選ぶ2010年代のSF傑作選その1。

伴名練の作品「なめらかな世界と、その敵」が面白かったので

本当は伴名練の作品を読みたかったのだが寡作のため

とりあえずアンソロジストとしての仕事を拝見することにした。

 

既読は津原泰水テルミン嬢」 、円城塔「文字渦」、飛浩隆「海の指」の三作。

その他の好みの作品は「滑車の地」 、「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」、

「大卒ポンプ」。

小川一水「アリスマ王の愛した魔物」も雰囲気的には好き。

面白さでは「海の指」、「滑車の地」が双璧。

スタニスワフ・レムの「ソラリス」に着想を得た「海の指」は

圧倒的な力の中で生き抜く人間たちの情念、悲哀が描かれ、

なんとも切なくなる読後感。

もしかしたらその一瞬が訪れるかもしれない期待は、絶望を伴うのだろうが。。。

悲哀と言えば不思議な味わいの「大卒ポンプ」。

ふざけた作品かと思いきや、・・・切ない。

「文字渦」は初読時より理解?できたかな。落ち着いて読めたので良かった。

「滑車の地」は目に浮かぶような世界観の描写が素晴らしい。長編で読みたい。

「allo, toi, toi」は非常に疲れる内容で、好き嫌いという誰もが持つ

心理的葛藤の突き詰め方と変遷が息苦しい。

主人公に対しては自業自得だと思いつつ、彼を突き放す最後に言葉が無い。


好き嫌いはあるかもしれないが、ハズレ感は無かった。

様々な切り口の作品群を読んでいると、今後も飛躍的にすそ野を広げていく

SFの可能性を感じる。

日本SFの現在を知るには良い作品集だった。

勿論、パート2も入手済み。

 

【収録作品】
小川一水  :「アリスマ王の愛した魔物」 
●上田早夕里 :「滑車の地」 
田中啓文  :「怪獣惑星キンゴジ」 
仁木稔   :「ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち」 
北野勇作  :「大卒ポンプ」
神林長平  :「鮮やかな賭け」 
津原泰水  :「テルミン嬢」 
円城塔   :「文字渦」
飛浩隆   :「海の指」
長谷敏司  :「allo, toi, toi」