著者:木下昌輝
出版社:文藝春秋
過去のいくつかの作品から連なるような構成っぽいが
徳川家康に呪いをかけた犯人を捜しだすよう依頼された宮本武蔵のイメージが
「敵の名は、宮本武蔵」からガラリと変わってしまい戸惑う。
戦国の世が急速に終末に向かう中、弟子もなく落ちぶれているのは
時代だから仕方が無いとは言え、ちょっと可哀想な描き方になっているような。
「宇喜多の捨て嫁」「宇喜多の楽土」の流れもあるが、
妖しさを意識したわりに過去作の妖しさには及ばない気がする。
「戀童夢幻」も含め、いくつかの過去作品の要素を取り込み過ぎたのでは?
そのせいか、いつもの木下作品に比べると入り込めなかったのが残念。
決して面白くないのではなく、宮本武蔵とミステリーの組み合わせに
力点を置き過ぎてしまったのではないか。
徳川家康にしても呪いを信じていないわりにはかなり呪いを避ける努力が
半端ないわけだが、結局それが人を憎む連鎖を招いているだけで
末代まで祟るってことは、呪いというより子孫に憎しみを
リレーしている結果なんだろうな。