著者:オクテイヴィア・E・バトラー
翻訳:藤井光
出版社:河出書房新社
てっきり男性作家だと思って読んでいたら女性でした。SF短編7編とエッセイ2編。
詳しい状況説明がないためストーリーを理解するために少し戻りながら
繰り返して読みはじめたが、ぐんぐんと引き込まれる。
短編だけではなく、エッセイも読ませる内容で、著者のバックグラウンドと作品が
密接にリンクしていることがよくわかる。
作品ごとに自身のあとがきが添えられていたのも楽しめた。
全体的に面白かったが、表題作と「恩赦」が特に印象的。
ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞の三冠に輝いた「血を分けた子ども」は
地球外の生命体が人間の生存を保証する条件が繁殖を受け入れることで
人間側の葛藤と生命体の持つ愛情が見事に描かれている。
「恩赦」は集合体と呼ばれるこれまた地球外の生命体に
支配されている人類と通訳として集合体に雇われている女性の話し。
働くために面接に来た6人の人間との会話が現時点での世界が抱える問題と
リンクしているようでため息が出る。
エッセイは作品を補完するだけではなく、著者の熱量ががっつりと感じられた。
むしろ作品よりも響くものがあって、読めて良かった。
どの作品も重苦しいストーリーな印象だが、なぜか読後に引きずらない。
どのような状況であっても垣間見える希望を登場人物たちに感じるからだろう。
著者の新作が読めないのが残念。