著者:沢木耕太郎
出版社:新潮社
第二次大戦末期に密偵として蒙古人の修行僧に扮して
中国奥地、インド、ネパールなどを徒歩で渡り歩いた
西川一三の苦難の旅と人生を描くノンフィクション。
本書を読むまで全く知らない人物だったが何と魅力的な人だろう。
沢木耕太郎が足掛け25年をかけた作品だけあって西川の著書を読み込み、
インタビューを重ねることで浮かび上がる西川が放つ魅力は
加速度的に目が離せない読書体験となった。
そもそもラマ僧に扮し、密偵として日本のため中国に潜入した西川だが、
終戦を知っても旅を続け、行く先々で言葉を学び、
人々と交流を重ねながら自分のため「生きる」姿はいちいち響いてくる。
共に旅をしているかのように落胆したりハラハラしたりの連続は
勿論著者の手腕にもよる。
少しでも食べられること、暗くても狭くても屋根のある部屋で寝られること、
温かい陽に当たることだけで感じる小さな幸せの尊さ。
困難を克服することを楽しみ、小さな幸せを感じている西川の生き様は
色々と考えさせられた。
突然の旅の終了は残念で、まだまだその先を読みたかった。
また、ラストに語られる著者と西川の偶然には鳥肌が立った。
まだ3月手前だが、今年トップクラスの面白さであることは間違いない。