吉祥読本

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イエメンで鮭釣りを ::ポール・トーディ

砂漠の地、イエメンに川を作り、鮭を放流し、釣りをしたい。
大富豪シャリフの壮大な計画に翻弄される主人公とそのプロジェクトの顛末を描いた
イギリスのユーモア作品です。

 

主人公はイギリスの国立水産研究所に勤める堅物研究者アルフレッド・ジョーンズ。
あれよあれよという間に断ったはずのイエメン鮭プロジェクトの実質的な責任者に祭り上げられ、政府家や所属する研究所の思惑などが絡み合いながら、不可能と思われた大プロジェクトが徐々に進行していく。

 

婚約者が戦地で行方不明となっているハリエットは、シャリフとアルフレッドの橋渡し役となるエージェント。
手柄は自分のものにするが失敗時の責任は部下に取らせるタイプのアルフレッドの上司。
大富豪シャリフはこのとんでもないプロジェクトを言い出したとは思えないほど思慮深いが、一体何を考えているのかわからない男。
そして主人公の妻は上昇志向の強いキャリアウーマン。
様々な登場人物の織り成すユーモアテイストの小説なのだが、アルカイダの出現があったりして社会風刺、政治風刺も混在している。
堅苦しさは一切無く、むしろ日記、電子メール、調書、テレビ番組の台本(進行表)などを使ってプロジェクトの進行の様子を描いているところが一風変わっていて面白い。
特に台本部分はブラックで笑えた。
この手法は決して斬新ではないが、状況描写を細かく描き込むことがない分、読者の読み込み方に自由度が委ねられているので読みやすく、いきなりシーンが展開してもさほど混乱する事がない。

 

大プロジェクトだがざっくり言えば「釣り」をすることが目的なので(ざっくりしすぎだが)題材的には地味でありながら無理やり派手な作品に仕上げていないあたりに好感がもてる。
唯一、アルフレッドとキャリア志向の妻とのやりとりに後味の悪さを覚えたが、
適度な盛り上がり方が心地よい作品でした。