吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

2023-01-01から1年間の記事一覧

2023年の10冊

今年も終わりですね。早いものです。 今年も印象的な作品を10冊セレクトします。選択した中での読書順なので順位付けはしていません。 ●天路の旅人著者:沢木耕太郎https://oldstylenewtype.hatenablog.com/entry/2023/02/24/115152 ●火を熾す著者:ジャック…

黒い絵

著者:原田マハ出版社:講談社 著者初の「ノワール小説集」とのことで期待したのだが、 久しぶりに読んだ原田マハの作品は求めていたイメージと大きくずれていて困惑した。 小田雅久仁の「禍」直後だけに大きなフォントと広い行間の構成にむしろ戸惑い、 目…

著者:小田雅久仁出版社:新潮社 体の一部をモチーフに書かれた短編集。 濃度の高い言葉を隙間なく詰め込んだページの連続。 フォントサイズも小さめでページ数以上に情報が多い。 そのうえ畳み込まれる気色の悪い描写に脳みそが追いつこうとフル回転させら…

ギケイキ3: 不滅の滅び

著者:町田康出版社:河出書房新社 待ちに待った第3巻はあっという間に読み終えてしまった。 現代のエピソードを織り込んだ義経の語り口から察するに 町田康の体を借りて語っているのだろうか。 かつての勢いもなく落ちていく義経一行、 相変わらず意味不明…

金星の蟲

著者:酉島伝法出版社:早川書房 クセが強すぎる短編集のため1日1話ペースで読む。 既読は「環刑鋼」のみ。やはり面白い。けどグロい。 他の作品も読めるチャンスとばかりチャレンジするも 独自の造語や漢字に四苦八苦。 各話の扉にあるイラストと頼りに必死…

君が手にするはずだった黄金について

著者:小川哲出版社:新潮社 著者自身をモデルとしたノンフィクション風短編集という解釈でいいのかな? 大学院生、小説家、占い師、トレーダー、漫画家などを通して語られる論考は 著者自身のそれがそのまま反映されていると思え、リアル。 他人の思考回路…

幽玄F

著者:佐藤究出版社:河出書房新社 戦闘機に魅了された少年は一途に夢を追い求め、 自衛隊で天才パイロットとなるも思わぬ挫折で日本を離れる。 護国、仏教などに関する思考を重ねつつ、戦闘機への自分の気持ちに逆らわず、 冷静かつ忠実に行動する様は終始…

仮面物語: 或は鏡の王国の記

著者:山尾悠子出版社: 国書刊行会 長きに渡り封印されてきた作品をようやく読むことができた。 初期のころから山尾悠子作品の持つ幻想的な雰囲気は かなり確立されていたのだと思う。 物語を理解しきれたか?と問われればいつも通り自信は無いが、 状況や…

恐怖の正体-トラウマ・恐怖症からホラーまで

著者:春日武彦出版社:中公新書 個人的に題名の印象と内容が違っていたので途中から気持ちを入れ替えて読んだ。 恐怖を定義するのは難しいし医学的、科学的根拠を示せるものではない。 よって、著者(医学博士・精神科医)の主観で語られるエッセイというと…

八月の御所グラウンド

著者:万城目学出版社:文藝春秋 京都を舞台にした女子高校駅伝と草野球大会でのちょっと不思議な青春物語が2作品。 短篇「十二月の都大路上下ル」は方向音痴の1年生が駅伝中に見かける新撰組の コスプレ集団が現れなければ普通に爽やかな作品。 中編の表題…

剣、花に殉ず

著者:木下昌輝出版社:KADOKAWA 宮本武蔵の最後の相手とされる雲林院弥四郎(うじい やしろう)と 熊本藩主細川忠利の友情がメインの話し。 忠利を守りながら独自の剣の道を求める弥四郎は 戦場で出会った宮本武蔵といずれ剣を合わせることを希求している。…

夢分けの船

著者:津原泰水出版社:河出書房新社 津原泰水の最後の作品ということもあり、じっくり読み込んだ。 上京して音楽の専門学校に通い始めた主人公。 彼を取り巻く友人や知り合いになった人々との交流が描かれるが、 そこにホラーを思わせるテイストが加わり、 …

教養としての歴史小説

著者:今村翔吾出版社:ダイヤモンド社 題名や出版元からビジネス書として読むことを意図しているようだが、 特に堅苦しくもなく、歴史小説をこれから読んでみようかなと思う人には 参考になるでしょう。 歴史小説と時代小説の違いを厳密に考えたことが無か…

災害の日本近代史-大凶作、風水害、噴火、関東大震災と国際関係

著者:土田宏成 出版社:中央公論新社 20世紀初期に起きた自然災害は日本のみならず世界中で起きていた。 災害の多い日本は海外から多くの援助を受け、海外による外交的意義に気付き、 徐々に海外に対する支援を他国同様政治化していくようになる。 かなりの…

虫とけものと家族たち

著者:ジェラルド・ダレル翻訳:池沢夏樹出版社:集英社 イギリスからギリシャ・コルフ島に引っ越してきたダレル一家の物語。 自然に恵まれ、様々な動物や昆虫に接する生活を送る少年の視線で語られる日々の 何と幸せなことか。 ヤモリと巨大カマキリの戦い…

ぼくはあと何回、満月を見るだろう

著者:坂本龍一出版社:新潮社 「音楽は自由にする」以降から晩年の坂本龍一の記録。 淡々と語られる闘病生活、そして音楽への思いが柔らかくも熱をもって伝わってくる。 まさしく真のアーティストとはこういう方の事を言うのだろう。 政治への姿勢、よく知…

半導体戦争-世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防

著者:クリス・ミラー翻訳:千葉敏生出版社:ダイヤモンド社 半導体の歴史や現在の状況が非常に分かり易く纏められ、また、 読み物としても面白い。 アメリカと中国の覇権争い、台湾や韓国の思惑、日本の栄光と挫折、 そして巻き返しなど、曖昧だった世界の…

最後の三角形 (海外文学セレクション ジェフリー・フォード短篇傑作選)

著者:ジェフリー・フォード翻訳:谷垣暁美出版社:東京創元社 「言葉人形」に続く短編集14作品。 様々なタイプの作品群はいずれも読みごたえがあり、 濃密な奇想、幻想にじっくりと包み込まれ、想像力を試されているかのよう。 そして想像力の遥か上を行く…

伝説の編集者 坂本一亀とその時代

著者:田辺園子出版社:河出書房新社 坂本龍一が、父親が生きているうちに父ことを本にしてほしい、 という意向からできた作品との事。 結局父親の意向により死後に世に出たようだが。 戦後文学の名作に関わっていた編集者をかつての部下ならではの視点で描…

777 トリプルセブン

著者:伊坂幸太郎出版社:KADOKAWA 殺し屋シリーズはやはり面白い。 ホテルを舞台に次々と現れる個性豊かな殺し屋たちのスリリングな駆け引きは 目が離せず、大事にゆっくり読めよと自らに言い聞かせているのに 一気読みしてしまった。 「マリアビートル」に…

怪獣保護協会

著者:ジョン・スコルジー翻訳:内田昌之出版社:早川書房 パンデミックが無ければ生まれなかった作品なのかもしれない。 複雑で重厚な作品を執筆していたが様々な理由で完成できず、 真逆ともいえるポップな作品を一気に書き上げたそう。 ひょんなことから…

襲撃

著者:ハリー・ムリシュ翻訳:長山さき 出版社:河出書房新社 第二次大戦末期のオランダ。警視が何者かに射殺された事件がきっかけに 両親や兄を殺された少年、アントンの人生と事件の真相が描かれる。 人が生きる上で起きる物事には裏も表も、良いことも悪…

言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか

著者:今井むつみ/秋田喜美出版社:中央公論新社 確か以前何かで高野秀行さんが本書の事に触れていたのを見て読んでみることに。 専門家が言葉の成り立ち、進化を「オノマトペ」と「アブダクション」を キーワードに具体的に提示してくれている。 言葉の発…

五月 その他の短篇

著者:アリ・スミス翻訳:岸本佐知子出版社:河出書房新社 12か月にわたる12の短編集。 初読みの作家さんだと思っていたが、「コドモノセカイ」で一作読んでいた。 岸本さん翻訳なのでハズレは無いと思っていたが期待通り。 ただし一度読んだだけでは理解で…

「静かな人」の戦略書─騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法

著者:ジル・チャン翻訳:神崎朗子出版社:ダイヤモンド社 題名で参考になるかなと思い読んでみた。 簡単なチェックリストではやはり自分が内向型に分類されることが確認できた。 ビジネスには外交的な人の方が有利だなと思うが、 無理にそちら側に行かなく…

イラク水滸伝

作者:高野秀行出版社:文藝春秋 偉そうで申し訳ないが最近の高野さんの作品レベルの高さは目を見張るものがある。 イラクの事は詳しくないが、水滸伝に例えてくれるだけで理解が格段に アップした気がする。 昔からの緩い面白さは維持しつつ、訪れた国の複…

黒い海  船は突然、深海へ消えた

著者:伊澤理江出版社:講談社 2008年、太平洋上で漁船・第58寿和丸が突如沈没した。 20人中生き残ったのはわずか3人。 船から流出した油にまみれながら生き残った船員の証言は二度の衝撃があり、 なおかつあっという間の沈没だったということ。 ところが調…

AIとSF

編集:日本SF作家クラブ 出版社:早川書房 「ポストコロナのSF」「2084年のSF」に続くアンソロジー第3弾。 飛浩隆、円城塔の名前があったので購入。 イメージとして真逆なところを狙ったのかもしれないが、 良し悪しは別として宗教とAIを絡ませる作品が何作…

安倍晋三 回顧録

著者:安倍晋三聞き手: 橋本五郎聞き手、構成:尾山宏監修:北村滋 出版社:中央公論新社 事件から1年以上経過したが、ニュースを見ているといまだに名前が 出てくることから大きな影響力を持っていたのだなと改めて思う。 柔軟性のあるリアリストというの…

裸の大地 第1部 狩りと漂泊

著者:角幡唯介出版社:集英社 基本的に地図を持たず、狩りをしながらグリーンランドを探検するという 思いに駆られた著者の挑戦が描かれる。 「極夜行」のように暗闇の中での探検ではないため読み手側の緊張感は 多少薄まった気がするが過酷なことに変わり…