第二次大戦末期のオランダ。警視が何者かに射殺された事件がきっかけに
両親や兄を殺された少年、アントンの人生と事件の真相が描かれる。
人が生きる上で起きる物事には裏も表も、良いことも悪いこともある。
善悪の基準は人とその置かれた状況、環境によって変わる。
真相の全容が見えてくることで様々なものが変容していく感覚に陥り、考えさせる。
読み易いにもかかわらず深く、複雑な物語だ。
40年前の作品が今になって日本で翻訳されたようだが、
これだけの傑作が今まで出版されてこなかったのは不思議だ。
ドイツの銀行に勤め、ユダヤ人の財産を没収していた父親と
ユダヤ人の母親を持つ著者が「自分は第二次大戦自身である」と発言したらしいが、
著者自身の育った環境が大きく影響している作品であることはよくわかる。
主人公アントンの成長と心の内が丁寧に描かれ、
運命に翻弄されながらもどこか冷めた視点を失っていない様が
かえって悲劇的な内容を浮かび上がらせているよう。