吉祥読本

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U (ウー)

著者:皆川博子
出版社:文藝春秋

 

17世紀初頭のオスマン帝国第一次世界大戦中のドイツ帝国を舞台に
3人の少年たちの時空を超えた不思議な運命を描く物語。

オスマン帝国に徴用され、ムスリムに改宗させられた3人の少年が
戦争に翻弄されながらしぶとく生きる姿は著者お得意の分野とも言える。

かたや第一次世界大戦中、捕獲されたUボートを秘密保持のために沈没させ、
乗組員を救出する(される)という難しい作戦を遂行しようとするUボート

それぞれのUボートには運命的な3人が乗り合わせている。

描かれる二つ世界の登場人物は名前こそ違うが、深い関連があることは明白。
単純に考えればオスマン帝国で描かれた3人の子孫たちが再び出会ったのか?
と考えがちだが、そこは皆川先生、時を超えた寂寥感漂う作品となっている。

海中を航行するUボート内の描写は緊迫感があって驚くが、
オスマン帝国の臨場感はさらに驚かされる。
オスマン帝国がどんな状況だったのかなど知識は全く無いに等しいが
恐らく的確に当時の空気感を描いているだろうと思わせる描写力によって
その世界観に呆気なく引き込まれてしまうのだ。

二つの世界の繋がり方に関しては好き嫌いが分かれるところでもあるでしょう。
また、読み終わっても拭えないモヤモヤ感がいつまでも纏わりついてくるので
色々と考えさせられるのですが、それを良しとしない気持ちも湧いてきます。
何せ語られていないことが多いのだから。
それでも語られないからことこそ、深くて長い物語を想像させるところが
皆川先生の凄さなのでしょう。


巻末に掲載されている綾辻行人須賀しのぶ恩田陸との往復書簡を読むと
皆川先生のお人柄が浮かび上がるようでちょっとお得感。