著者:伊澤理江
出版社:講談社
2008年、太平洋上で漁船・第58寿和丸が突如沈没した。
20人中生き残ったのはわずか3人。
船から流出した油にまみれながら生き残った船員の証言は二度の衝撃があり、
なおかつあっという間の沈没だったということ。
ところが調査報告書にはこの証言は反映されず、大きな波を原因と結論付けた。
深海に沈んだ船は引き上げられないまま。
本書では潜水艦に衝突されたのではないか、との推論を示唆している。
著者による地道な調査による推論はとても納得のいくものだが、
現実には闇に葬られている状況。
同盟国のものか、周辺国のものか。
いずれにしても多くの人の命を失った事案であり、
国防に関する機密が優先されたとしたら理不尽極まりない。
それに比べ、漁船オーナーの野崎哲さんの誠実さには、ただただ恐れ入る。
本件で船を失うだけではなく東日本の震災でもダメージを受け、
それでも犠牲者とそのご家族への配慮を忘れない姿勢には敬意を表する。
また、処理水の件でも苦慮していることが書かれていた。
この度の処理水放出の際に見たニュースでたまたまお見かけしたが
自分の事だけでも大変な中、相変わらず多くの人のために動かれているようだ。
テレビを見ながら心の中でエールを送ることしかできないことが歯痒い。
世界では同様の事故が起きているのだろうが、
国家の都合で人命を蔑ろにするのはやはり納得がいかない。
いつか真相が白日の下に晒されることを願うばかりだ。