津原泰水の最後の作品ということもあり、じっくり読み込んだ。
上京して音楽の専門学校に通い始めた主人公。
彼を取り巻く友人や知り合いになった人々との交流が描かれるが、
そこにホラーを思わせるテイストが加わり、
「クロニクル・アラウンド・ザ・クロック」と昭和感漂う「夜のジャミラ」みたいな
不穏な物語を勝手に予測していたが、結局は極めて普通の青春の日々に終始した。
振り返れば些事を深刻に捉えていたり大きな分岐点に気付かず過ごしていたり
自分も覚えがある日々を思い起こさせるため、どこか懐かしい。
本書の大きな特徴として、内容は現代にも拘らず文体を敢えての明治時代風に
しているため最初は読みにくかった。
この字は何と読むのかな?となるところがいくつかあって
読む流れが度々止まってしまうのは浅学の結果として素直に調べたが、
過去作品にも通じる世界観を津原泰水独特のノスタルジーな雰囲気で
堪能するには役立つ表現方法だっと思う。
まだまだたくさんの作品を読みたかったのに、
新しい作品を読めないのはとても残念だ。
昨年再読しようと思いながら先延ばしにしている「11 eleven」を手始めに
ゆっくりと好きな作品を読み直そうと思う。