著者&作品
小川哲「黄金の書物」/伊野隆之「オネストマスク」
/高山羽根子「透明な街のゲーム」/柴田勝家「オンライン福男」
/若木未生「熱夏にもわたしたちは」/柞刈湯葉「献身者たち」
/林譲治「仮面葬」/菅浩江「砂場」/津久井五月「粘膜の接触について」
/立原透耶「書物は歌う」/飛浩隆「空の幽契」/津原泰水「カタル、ハナル、キユ」
/藤井太洋「木星風邪(ジョヴィアンフルゥ)」/長谷敏司「愛しのダイアナ」
/天沢時生「ドストピア」/吉上亮「後香(レトロネイザル) Retronasal scape」
/小川一水「受け継ぐちから」/樋口恭介「愛の夢」/北野勇作「不要不急の断片」
出版社:早川書房
読んでいない作家さんも多数いたのでどうかと思ったが、
なかなか味のあるSFアンソロージだった。
思いのほか収まらないコロナウィルスに対して確かにワクチンは必要だが、
実は今後生きていくうえで一番必要なのは、想像力なのかもしれない。
SF作家の持つ様々な想像力には圧倒されたり嘆息したり笑わせてくれたり。
以下、好きな作品たちをいくつか。
毎年、年初めに話題となる福男の行事がどのように変化してきたかを振り返る
柴田勝家「オンライン福男」は、阿呆みたいな作品として読んでいたが
いや待て、これはかなりそれも遠くない未来に変容していくのではないかと
ネット上に既に現れている有りがちな流れを描いてもいて、
割とリアルに感じたし楽しめた。
飛浩隆「空の幽契」は、「グラン・ヴァカンス」ばりの流れるような美しい描写が
相変わらず心地よい。
柞刈湯葉「献身者たち」は国境なき医師団の医師の紛争地帯を舞台に
感染症と向き合いながら理想と現実のギャップ、
志が同じでも相容れない価値観の違いなど、普遍的で考えさせる内容。
林譲治「仮面葬」は確かに今後はこれに近い葬儀が行われる可能性や、
働き方がありそう。
小川一水「受け継ぐちから」は、このアンソロジーの中では最もオーソドックなSF。
進化し続ける感染症と対峙し続ける人間たちに絶望を感じるか、抗うか。
終わらないかもしれないと思いつつ、期待を持てる読後感。
最も阿呆で楽しめた天沢時生「ドストピア」はヤクザたちのドタバタ作品。
SFとヤクザの組み合わせ、斜め上の展開と勢いは素直に楽しむべき。
作家の方々の想像力に感謝。