吉祥読本

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九月が永遠に続けば ::沼田まほかる

「猫鳴り」に続いて2作目。第5回ホラーサスペンス大賞受賞とあったのでホラー作品かと思っていたが思っていたようなタイプの作品ではなかった。

 

主人公は精神科医の安西と離婚し、高校生の息子、文彦と暮らす水沢佐知子。
ある夜、ゴミだしに出て行った文彦がそのまま失踪してしまう。
息子を探す約一週間を描いているが、ぐいぐいと読ませてしまう描写力は
デビュー作とは思えないほどの熟練度を感じさせる。
ホラーっぽい部分はグロいし、一体何が起きるのだろう?と期待しすぎたせいか、
最後まで読むと肩透かしを食ったようだったのが残念。

 

かつて起きた事件に関しては、読んでいて憂鬱になるが、それをきっかけに周囲が巻き込まれ登場人物たちの複雑な相関図を浮かべながらの読書はちょっと作りすぎな印象だった。
文彦の失踪の理由も「え?そんなんかい!」と思ってしまった。

 

佐知子に嫌われながらも協力を惜しまない図々しい服部が、鬱々とした本作にアクセントをつけていたがいきなりその服部を受け入れ、光が見えるようなラストを用意した作家の意図はどこにあるのだろうか。
素直に明るい未来を感じればいいのかもしれないが、実は違う印象を持ってしまった。

 

作者は母親として子供を必死に探す気持ちと共に、小動物の命を握りつぶそうとした衝動も描いている。
相反する気持ちの同居は誰しもが持ち合わせるものだが、あのラストは今までの相関図に服部と娘のナズナを組み入れた新しい何かの始まりを暗示しているのだとしたら。。。。

 

そんな事を考えてしまった自分が捻くれているだけだと思いつつ、
この作者ならそんな佐知子の狂気を暗示してもおかしくないという考えも捨てがたい。