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ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選

大森望氏がセレクトした時間SF傑作選13編。
いろんな切り口の時間SFがあるもんだなあ。
もっと違うジャンルもあるだろうが、時間モノに関してはこれだけ網羅していれば充分読み応えあり。
全てとはいかないものの、比較しながら読むことで相乗的に楽しめるものなんですね。

 

印象深いものをピックアップします。
まずはテッド・チャンの「商人と錬金術師の門」。
アラビアンな雰囲気の作品といえば古川日出男の「アラビアの夜の種族」を真っ先に思い出しますがこの作品もいい雰囲気です。
時間SFは事象の時間軸の整合性と、過去や未来に干渉したことによる影響の度合いの
兼ね合いに納得できるか否かによって完成度が計られる分野だと思いますが
本作は単純明快でわかりやすい。
物語の納まり具合もキッチリしていてSFとして読まなくてもいいくらい。
ちょっと優等生的な作品という気もしますが。

 

「限りなき夏」は愛する人とあと一歩、というところで彷徨うことになった男の悲哀と見るか、よかったね!と思って読み終えるか分かれそうな気がしますが、自分は後者。
ロマンチストではないが、時間が永遠に止まればいいのにって思うことはあったよなあ。。。
描写がイメージしやすいです。

 

「彼らの生涯の最愛の時」は、二人の男女の関係が時を越えて描かれ、
お互いに影響を与えながら徐々に立場が逆転していくあたりがうまい。
時間を越えても不変の場所として「マックドナルド」(マクドナルドじゃないです、念のため 笑)を舞台にするところに茶目っ気があってニコリとさせる。

 

「去りにし日々の光」のようにガラスの中に閉じ込められる時間は見てみたい。
窓ガラスに是非一枚欲しい。ちょっとセンチメンタルな作品。

 

「旅人の憩い」は今までに全く読んだことの無いタイプの作品。
目に見えない敵と戦闘中の兵士が一時の休憩をとってまた戦場に戻るまでの話だが
時間の流れが違う世界が共存しているってことでいいのだろうか。
時間の流れが変わると共に兵士の名前も変化していくなんてなんと大胆な設定か。
それだけでびっくりする。

 

スタージョンの「昨日は月曜日だった」は火曜日が無くなってしまう発想が「らしい」とも言えるが個人的には物足りなさを感じた。期待していただけに残念。もう少しハメをはずしてくれてもよいのに。



時間SFにも色んな分野があることを認識できるだけでなく、同じ分野でも違う切り口を味わえるのは
貴重です。
大森さんのセレクトの妙を堪能できる一品でした。



作品リスト
 「商人と錬金術師の門」  :テッド・チャン
 「限りなき夏」  :クリストファー・プリースト
 「彼らの生涯の最愛の時」  :イアン・ワトスン&ロベルト・クアリア
 「去りにし日々の光」  :ボブ・ショウ
 「時の鳥」  :ジョージ・アレック・エフィンジャー
 「世界の終わりを見にいったとき」  :ロバート・シルヴァーバーグ
 「昨日は月曜日だった」  :シオドア・スタージョン
 「旅人の憩い」  :デイヴィッド・I・マッスン
 「いまひとたびの」  :H・ビーム・パイパー
 「12:01PM」  :リチャード・A・ルポフ
 「しばし天の祝福より遠ざかり…」  :ソムトウ・スチャリトクル
 「夕方、はやく」  :イアン・ワトスン
 「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」  :F・M・バズビイ