書店で「異常心理ミステリー傑作集」の文字に目が留まり、何となく購入。
1959年から1970年の間に発表されている作品ばかりなのでかなり古いのだが、
とても読み易く、さほど古さを感じさせない力作ばかり。
未読作家(多分)であること、文庫本にしてはそこそこ高いので大丈夫かな?
と思ったが、読んで正解だったと断言できる9編だった。
死刑執行人の役をもらった役者がその役に没入するうち、時空を超えて
現在と過去の境界が分からなくなり惨劇を迎える「断頭台」は
表題作だけあって最後まで読み手を引き付ける。
SFなのかホラーなのかよくわからないが、本作のなかでは好きな作品。
「天使」と「暗い独房」はテーマとしては同じで、人間の心理の裏表、
決して交わることのない深いところに存在する人間の気持ちの有り様が描かれる。
どちらもミステリーの分野だろうが、冗長な「天使」を読んだ後に読む
「暗い独房」のほうが分かり易い分、結末も予測できる。
ただし結末が予測できることが面白さを損ねているわけでは無く、
むしろ今の時代に書かれたのではないかと思うような驚きの方が強かった。
「獅子」「暴君ネロ」「疫病」など古代ローマを舞台にした作品も
違和感なく読めるので、かなり器用な作家さんのようだ。
(ミステリー作家さんとしてはかなり実績のある方でした。失礼しました)
「断頭台」もツヴァイクの「マリー・アントワネット」を参考にしていたり
作中でも引き合いにしていたし、「ノスタルジア」でも古代マヤの短剣が
大事なアイテムとなっていたりと、時間を超えた和洋折衷な独特な
雰囲気はなかなか良かった。
「疫病」は人間に恋した神が相手にされない事を逆恨みし、
神々の怒りが人間に向いてしまい、ペストを流行させて人間たちを苦しめる
という展開で、内面的には神と人間の差がほとんど無いという様に苦笑してしまう。
コロナ禍で読むとまさか神様の仕業じゃ? と言いたくなる。
過去の森村誠一との対談も掲載されているが、
お二人の関係性がよくわかる気さくな雰囲気が伝わってきました。
ホント時代を感じさせない粒ぞろいの作品たちでした。