吉祥読本

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高丘親王航海記 --渋澤龍彦

貞観七(865)年正月、高丘親王は唐の広州から海路天竺へ向った。幼時から父平城帝の寵姫藤原薬子
天竺への夢を吹きこまれた親王は、エクゾティシズムの徒と化していたのだ。
鳥の下半身をした女、犬頭人の国など、怪奇と幻想の世界を遍歴した親王が、旅に病んで考えたことは…。
遺作となった読売文学賞受賞作。

宇月原晴明の「安徳天皇漂海記」をきっかけに読みました。
年末の慌ただしい時期に、スコンと幻想世界に連れて行ってくれました。

67歳の高丘親王と二人の僧、安展と円覚そして偶然同行することとなった秋丸の四人が天竺に向かう。
先日も孫悟空が出てきたっけ(笑)
殆どが旅の途中に高丘親王が見る夢の話しでもある。
儒艮(ジュゴン)とか獏とか、下半身が鳥の女とか犬の頭を持つ人間などが出てくるのだが、
夢と現実を自由に行き来している感じが不思議であり心地よい。
幼少の頃から高丘親王に多大な影響を与えた藤原薬子の回想や、親王の夢に妖しく現れる薬子が、
独特なこの世界に味付けをしている。

遺作でもあり、殆どが病床で書かれた作品らしいが、全く暗さを感じさせないし、
それどころかたまにクスリとしてしまうような可愛らしさを感じる。
飄々として年齢を感じさせない高丘親王の好奇心を感じさせるが、反面、親王の行動には
命への執着心みたいなものはあまり感じられない。それが無常観を漂わせているようにも思う。
まるで渋澤龍彦そのものを反映しているかのようだ。

「そうれ、天竺まで飛んでゆけ。」

石を投げる高丘親王の姿は、宇月原晴明の心を見事に捉え、そしてそれが「安徳天皇漂海記」に
つながったのだろう。

あっさりしているラストが妙に心に残る作品だ。
このタイミングで読んでおいて良かった。