吉祥読本

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信長(あるいは戴冠せるアンドロギュヌス) --宇月原晴明

1930年、ベルリン滞在中のアントナン・アルトーの前に現れた日本人青年は、ローマ皇帝ヘリオガバルスと信長の意外なつながりを彼に説いた。
そして口伝によれば、信長は両性具有であった、と…。
第11回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。 (本書裏表紙より抜粋)



安徳天皇漂海記」に刺激され読んだ作品です。
多くの文献を読み調べ、、独特の幻想的な世界観に再構築しなおされた歴史には、
物語であることを忘れさせ、真実はこうだったんじゃないのだろうかと思わせる。
とっかかりは今ひとつ掴みにくい話なのだが、織田信長豊臣秀吉明智光秀などお馴染みの武将たちの歴史と宇月原氏の描く妖しい人間模様が見事にシンクロして描かれる。
今川、武田、上杉等々との戦いも裏では幻術が絡んでいたりとオカルトっぽいところもあり、このあたりは好き嫌いが分かれるところかもしれないが、あまり気にならなかったどころか各武将の特徴を考慮しつつ今までに無い味を加えていたのが見事だと思う。

 

アンドロギュヌスとは両性具有のことで、織田信長がそうだったという設定は突拍子も無いのだがこの物語を読むと、信長が成し得た偉業はだからこそだったのではないか?とやけにリアルさを感じさせた。
更にローマ帝国の皇帝ヘリオガバルス織田信長を結びつけ、それをもって織田信長という人物を解析することで、この物語の信憑性をより高めている。いや虚構なのだが。
更に更にあんな人物まで登場させてより世界を広げてしまうとは。。。
歴史的真実と思い切り幻想的な発想とが結びついた伝奇小説である本書は、日本ファンタジーノベル大賞を受賞しているが、その範疇をはるかに越えた作品なのではないでしょうか。
多少の読み辛さはあるものの、これがデビュー作とは思えない熟練された技を見せられた気がします。