吉祥読本

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雷神の筒 ::山本兼一

「火天の城」が面白くて積んでいましたがようやく棚卸しです。
織田信長を語る上で鉄砲を抜きにして語ることは難しいでしょう。
織田軍が武田信玄との戦いで鉄砲の三段撃ちを行ったという話は有名ですが実際はその戦法で勝負をつけたわけではなく、最終的には刀や槍で泥臭い戦闘を行ったとのこと。
色々な文献があるので賛否はあるようですね。
三段撃ちの有無はともかく、いち早く鉄砲を取り入れた織田信長が巨大勢力となったことは確かなわけで裏の歴史として鉄砲の歴史があるわけですね。

 

その鉄砲を信長に指南した男がこの物語の主人公、橋元一巴です。
この人物は功績の割りに歴史上に名をほとんど残していません。(自分も知りませんでした)
が、信長の天下獲りに重要なファクターである技術部門を担っていた人物にスポットを当てた視点が面白い。
記録があまり残っていないためほとんどが創作ですが、著者はかなりの文献にあたったと思われます。
特に当時の銃器に関する記述は興味深く読ませてもらいました。

 

正論で王道を説く橋元一巴に、信長の迷惑顔が目に浮かびます(笑)
現代社会でも、仕事のできる一途な技術者と経営者の視点との違いが確執を生むシーンはよくあると思いますが、この作品はモロにそんな感じである。
信長が世に出る前から行動を共にしていながら天下に近づくと徐々に信長を恐れるようになる家臣が多い中、一巴は信長のためを思い苦言を呈することもしばしばで、信長は一巴の意見を取り入れることが多い反面、その態度が気に食わない。

 

手柄を挙げながらも出世できず、しかし信長のために働く一巴の姿がなんとも可哀想で(苦笑)
天下に近づく反面、民のために鉄砲を利用するべし、との初心から徐々に離れていくことで葛藤する一巴の視点で見る織田信長の姿が面白いことも確か。

 

信長の心情が描かれていないため、そのあたりもう少し描きこんでほしかったが、使えるものは徹底的に使う合理的かつ怜悧な信長らしさは見え隠れしていた。
実際はその力量を相当認めていたのだろうが、ムシが好かないという感情は、案外最優先されることでもあるので、人間関係とは難しいものです。