吉祥読本

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安徳天皇漂海記 --宇月原晴明

壇ノ浦の合戦で入水した安徳天皇。伝説の幼帝が、鎌倉の若き詩人王・源実朝の前に、神器とともに
その姿を現した。空前の繁栄を誇る大元帝国の都で、巡遣使マルコ・ポーロは、ジパングの驚くべき
物語をクビライに語り始める。
時を超え、海を越えて紡がれる幻想の一大叙事詩。第19回山本周五郎賞受賞作。
(裏表紙より引用)



以前、「信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」という作品に、なんだそれ?と思って
手に取ったことがあったのですが、読むのが面倒臭い気がしてやめたことがある作家さんでした。
この作品は表紙が飯嶋和一さんの作品と似ていたという理由だけで面白そうと思い、
積んであったのですが予想以上に面白い作品でした。いやあ、好きだなあ。
万人受けはしないでしょうが(笑)
相当歴史を勉強したと思われ、見事に歴史と物語が融合されています。



第一部は源実朝を主軸に話しは展開するが、「古事記」「吾妻鏡」「金槐和歌集」などを引用しながらの
文章はハッキリ言って読みづらくて挫折しかかりました。
塩乾珠(しおふるたま)とか塩盈珠(しおみつたま)とか真床追衾(まとこおうふすま)とか、
最初だけ「かな」がふってありますがすぐに忘れてしまいます。
真床追衾など、かながあっても読みにくい。
しかし、引用される和歌は意味がわかりにくいにもかかわらず、美しい。
作者の紡ぎだす幻想的な文章は読みづらいくせに、やはり美しい。
慣れてくると物語にどんどん引き込まれ、めりこんでいけた。

 

それぞれの登場人物に肩入れこそしにくいが、しかし歴史に翻弄されている様や悲しみはが伝わってくる。
琥珀のなかで生き続けている皇帝とか、複数の人間が同時に同じ夢を見るくだりなど、
完全に幻想的歴史ファンタジーだが、伝え聞く歴史にうまくマッチさせたストーリー展開はお見事。
プライベートで良く遊びに行く江ノ島なども舞台に登場するので、イメージが涌きやすかった。
(知らなくても問題ありませんけど)

 

第二部はマルコ・ポーロが主軸に切り替わる。読みやすさに関して言えばニ部のほうが上なので
状況は理解しやすくなる。
元帝国のクビライ・カーンの命により様々な国を渡り歩くマルコ・ポーロの目線で
元帝国に亡ぼされる南宋帝国皇帝の悲劇とジパング皇帝の悲劇が結びつくストーリー展開はごく自然で、
二度にわたる元寇の顛末など、個人的にはこれでよし!と思いたい。
勿論あり得ないのだが(笑)

 

皆川博子が解説で、本作は澁澤龍彦と澁澤の『高丘親王航海記』への敬愛をこめている、と書いている。
読んでいないので『高丘親王航海記』も入手しました。

 

ついでに「信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」もブックオフ
・・・信長が両性具有!!ああ、大丈夫なのか? 期待と不安が!・・・・来年読む予定です。