吉祥読本

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銭の弾もて秀吉を撃て /指方恭一郎

城山三郎経済小説大賞」受賞作。この賞に関しては本書を読むまで知りませんでした。
ダイヤモンド社から出版しているだけのことはあって歴史小説かつ経済小説です。

作品は天下人となった秀吉が博多の豪商、島井宗室に「朝鮮出兵」の先鋒として
協力を求めるところから始まる。
商人である島井宗室になぜ秀吉は頼ったのか? それに対し、戦端を開くのではなく、
あくまで商人として明国と対峙したい宗室は、いかにして戦争を回避するのか。
権力者からの無理難題と自らの信念の狭間で苦心する姿が描かれる。
同じく朝鮮出兵を阻止したい石田三成と共に秀吉の野望に立ち向かう姿にワクワクした。

遡ると島井宗室こと「シゲ」は、武家の家系でありながらお家騒動によって突如追い落とされ、
奴隷として売られてしまう。しかし、朝鮮や対馬を舞台とした商人たちの中で才覚を現し、
ついには博多の豪商の目に止まる。
商人として活躍の場を与えられた「シゲ」の出世物語は時に都合がいいが、テンポよく楽しめた。
売り飛ばされた相手に復讐するという部分に関しては意外性やエンタメ性も加わり、飽きさせない。

商人たちの活気や胆力は武士以上と言っても過言ではなく、当時からすでに国を越えての米相場や、
米相場を利用したギリギリの勝負に賭ける男たちの戦いは痛快そのもの。
終盤の流してしまった感やあっさり感はちょっと物足りないが、それほど気にならなかった。

信念やプライドを強く持ち続けることで天下を動かす人たちや有名武将に一歩も引かない姿勢が
多くの人に信頼を受け、そして報われ発展することは現代にも通じるだろう。

先般読んだ「三人の二代目」と重なることも多かったことで楽しみ度も増えた気もするが、
デビュー作としては充分面白い。
戦国時代は武将に眼が行きがちだが、現代人は基本、商売で勝負をしているのだから、
商人の生き様はむしろ身近に感じられた。

明智光秀の謀反の際、織田信長に呼ばれ「本能寺」にいた島井宗室が、信長の機転によって
脱出するシーンがあるがその際の信長の潔さが光る反面、老いと猜疑心によって狂っていく秀吉の
描き方も印象的だった。