吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

空を見上げる古い歌を口ずさむ --小路幸也

「BOOK」データベースより引用
「みんなの顔が“のっぺらぼう”に見えるっていうの。誰が誰なのかもわからなくなったって…」
兄さんに、会わなきゃ。
二十年前に、兄が言ったんだ。姿を消す前に。
「いつかお前の周りで、誰かが“のっぺらぼう”を見るようになったら呼んでほしい」と。
第29回メフィスト賞受賞作。



この本を見かけたときから気になっていたのが題名の意味でした。
半分くらい読み進んでようやく意味がわかってスッキリしました(笑)
ただなぜこの題名を付けたのか?
キーポイントになるはずですが、この時点ではわかりませんでした。

 

小路さんのプロフィールを見ると北海道生まれ、北海道在住、広告代理店に勤務していたとあります。
確かに広告のコピーっぽくもある題名です。
蛇足ですが私は札幌生まれで、小路さんとほぼ同年代なんですが、
それだけで作品の捉え方が違った気がします。
札幌生まれといっても一歳位から東京に移住したので親戚が多いだけで北海道のことは
記憶にありません。
・・・なのですが、この作品に漂う昭和の雰囲気やキャラクターにとても親近感が涌き、
同じ時代、同じ地域で過ごした友人が書いたものだ、と言われたら信じてしまいそうでした。



ごく普通の生活を送っていた「ぼく」の息子がある日
「みんなの顔がのっぺらぼうに見える」
と告白する。

 

「ぼく」はその話しを聞くなり長い間離れて暮らす兄さんに会おうとする。兄は
「いつか周りの誰かがのっぺらぼうを見るようになったら呼んでほしい」
と言い残して去って行ったのだ。

 

そして、作品全体の9割近くが呼び寄せられた兄による「語り」で占められている。

 

とても長い「語り」は、ほぼ兄の小学校時代(昭和40年代)に起きていたことです。
ゆっくりとした雰囲気の中で語られるいくつかの謎は、とても興味深いものでしたが
「違い者(たがいもの)」、「解す者(げすもの)」、「稀人(まれびと)」などの
キーワードが出てくる終盤でようやくスピードアップされ、謎の核心に近づきます。

 

そのあたりをもっと早く出して、もう少し「その者たち」に関する話しにページを割いても
よかったと思います。
例え核心がわからなかったとしても。。。それが残念でした。

 

「東京バンドワゴン」でも感じる事ができましたが、
友達や町の人たちの「あの時代」の暖かさを感じさせる描写は、
デビュー時点から持っていたんだなあと、感心しました。
気になるところはありますが、この雰囲気は気持ちのいいものでした。




またまた個人的な話で申し訳ないのですが、この作品を読み終わった直後、
中学時代からの仲間たち数人と久しぶりに会い、真っ昼間から生ビールを飲みながら時間を過ごしました。
当時と変わらないバカ話し、笑い声を聞きながら、ふと、抜けるような青空を窓越しに見上げた時に
「空を見上げる古い歌を口ずさむ」という題名を付けた意味が理解できたような気がしました。
いい題名だったなあ、と思いながら飲む生ビールは格別に旨かったです。
(それにしても昼のアルコールは効きますねえ。。。笑)



続編の「高く遠く空へ歌ううた」も読み終わっているので、時間ができたら感想をアップしたいと思います。