吉祥読本

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分解された男 ::アルフレッド・ベスター

第一回ヒューゴー賞受賞作(1953年)をようやく読むことができました。
ガチガチのSFだと思っていましたが、SFミステリと言ってもいいですね。

 

時代背景は24世紀、人類には人の心を読み取ることができる「超感覚者」(エスパー)たちが存在していた。第一級から三級までに分類された「超感覚者」たちとそれらを持ち合わせていない人類とが共存している。王国物産社長のベン・ライクが敵対する会社の社長クレイ・ド・コートニーを殺害。
警察の超感覚一級者であるリンカン・パウエルが追い詰める展開。

 

心が読める(読まれる)時代なので殺人事件を起こしてもすぐにばれてしまうため、
永らく起きていなかった殺人事件は大問題となる。
読み手としては犯人はわかっているので、あとは犯人と警察の対決に集中すればよい。
興味は心が読まれる、というある種ズルイ設定を破綻することなく物語にできるのだろうか、ということだろう。

 

和訳が1965年のままなので表現が古臭く、ところどころ苦笑してしまう。
う~ん大丈夫かなあ、と何度も思いました。登場人物たちの感情が昂ぶる会話になると
みんなチンピラ風な言葉になったりするんだもんなあ。
挙句の果てに気持ちを読まれにくくするために心に思い浮かべる歌が何度も出てくるが、これが最初馴染めなくて(苦笑)
あるメロディーが浮かぶと一日中頭の中でリフレインしてしまうことがあると思いますがそれを利用して心を読まれるのを邪魔しようって作戦なんです(笑)
これが「ありとあらゆる陳腐なメロディーの髄をしぼったような」歌なのだ。(どんなだ!)

 

「八だよ、七だよ、六だよ、五
 四だよ、三だよ、二だよ、一
 《もっと引っぱる、》いわくテンソル
 《もっと引っぱる、》いわくテンソル
 緊張、懸念、不和が来た」

 

意味不明でしょ?果たしてどんな節回しなのでしょうか。
ただ、読んでいるとだんだん気にならなくなるから不思議です。
それどころか勝手に自分の中でメロディを付けてみたり。。。(笑)
突っ込みはこの辺で。

 

古臭さは仕方が無いのである程度無視して読み進むと慣れてきます。
後半にかけて物語はどんどんスピードを上げて来ます。
するとどうでしょう古臭い言葉遣いもリズムに合ってきます(笑)
未来の話なのになぜか懐かしさすら感じる世界観にちょっとずつ好感を持ってしまいました。
文字サイズの大小を使い分ける表現や、心を読み合うときの会話の表記を上下二段に分けてみたり、テキストだけでいかに状況を伝えたら良いのかという工夫、アイデアが散りばめられています。
今でこそ文字サイズや色、書体の違いなど工夫を凝らした作品やイラストや写真で補足する作品は多いですがこの作品は当時としては結構頑張っていたのではないでしょうか。

 

登場人物のキャラはいずれの人物も把握しにくいのですが、これで第一回ヒューゴー賞受賞作なのか?
という疑問よりも、荒削りながらSFの世界で評価されるのは理解ができます。
以後のヒューゴー賞選考における基準になったであろう作品は、読んでおいても損はないと思いました。