吉祥読本

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ユダヤ警官同盟(上下) --マイケル・シェイボン

「BOOK」データベースより引用
安ホテルでヤク中が殺された。傍らにチェス盤。後頭部に一発。プロか。時は2007年、
アラスカ・シトカ特別区。流浪のユダヤ人が築いたその地は2ヶ月後に米国への返還を控え、警察もやる気がない。だが、酒浸りの日々を送る殺人課刑事ランツマンはチェス盤の謎に興味を引かれ、捜査を開始する―。ピューリッツァー賞受賞作家による刑事たちのハードボイルド・ワンダーランド、開幕。ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞三冠制覇。


名だたるSF界の賞を総ナメの本作品は豊崎女史が褒めちぎっていたので読んでみました。ところが読み始めるとSFの匂いが全然しません。むしろ題名通り、警察小説というかミステリーというかとにかくそっち方面の作品にしか感じられず、上巻を読み終わってから改めて「SFなのか?」と振り返ってみると確かに事件が起きている「アラスカ・シトカ特別区」は「アメリカに返還」される予定であること、「ベルリンに原爆」が落とされたこと、「満州国」が存在するという記述があったことを考えると架空の歴史の上で成立している物語なんだと認識できます。しかし、リアルすぎて本当に存在する街や組織や宗派に思えてしまう。描写がうまいのは良くわかるのですが。

 

下巻に入ってもさりげなく「あれ?」という表現がでてくるのですが、それがSF的背景の説明なのかまわりくどい比喩なのか区別ができません。全体的にビアスの「悪魔の辞典」的なユーモアから毒を少し抜いたような「気の利いた」会話風なのですが、どうしてもわかりにくくて挙句の果てに事態がなかなか進展しない。
ユダヤ人の歴史もわからないし、そのうえチェスの話しまで絡んできて一体いつ盛り上がるんだろう?と思いながら読んでました。
上巻で言うと約310ページ中200ページくらいで面白くなってきたかも、と思い、下巻も約320ページ中、100ページくらいでいよいよ佳境か?と思うのですがそれっきり集中力を持続させる事ができませんでした(涙)
やっぱり最後までSF作品としては読めず、ミステリーといったほうが良いでしょう。
事件の発端となった「殺された救世主」=「超能力者?」みたいな匂いはあるのですが、はっきり言及されません。
主人公の別れた妻が主人公の上司として現れるので恋愛的パートもあるんですが、色んなものを詰め込んだ割りに淡々とマイペースで進むのです。
勿論これだけのものを詰め込んでうまい具合にまとめているんでしょうけど、、、、
上巻の帯はSF三冠を前面に押し出し、下巻の帯はエドガー賞、ハメット賞最終候補のミステリーと謳っていたのはこういうことなのね。。。


どうも絶賛の声が多いようでしたが(三冠だしな)多分、相性の問題なんでしょう。
ユダヤ人の歴史やチェスに詳しと楽しめるのかもしれません。

コーエン兄弟によって映画化されるようなので、映画を観たら理解できるのかもしれないと淡い思いを持っていますが、よほど心境の変化が無い限りきっと再読まではしないでしょう。
この作品はこう楽しむんだよ!っと教えて欲しいのである意味、多くの人に読んでもらいたい作品です。