吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

猫を抱いて象と泳ぐ /小川洋子

チェスがらみの作品という事は聞いてましたが、題名とどう繋がるのか疑問でした。
わかってみると、いい題名だと思います。

 

全体を通してとても静かな物語です。
屋上の象、バスの中で暮らすマスター、リトル・アリョーヒンの人形、全てが違う切り口で描かれているがいずれも閉じた空間を描いていて時に読みながらそんなところで心象風景が繋がるのかぁとため息がでます。
小川さんの物語に対する細やかな気配りに驚かされます。

 

主人公はチェスで生活しているし、チェスのことを知っているほうが深く味わえるのかもしれませんが綴られる内容は普遍的なものでもあり、チェスの知識がないことがこの物語を読む上で阻害することはないでしょう。



 「最強の手が最善とは限らない。チェス盤の上では、強いものより、善なるものの方が価値が高い。」



先入観で判断せず、真正面から見守ってくれる人たちは言葉がなくても通じ、共有し、美しい世界を共に創り出す。
閉塞している世界を描いているようで、無限大の広がりを感じさせてくれる。
誰しもが持つ弱さや、優しさや、哀しみに思いをめぐらしたくなるような、そっと寄り添ってくれるような物語でした。