吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

ブラックジュース ::マーゴ・ラナガン

奇想コレクションとしては珍しく表題が作品名ではありません。
色を題名に絡めた短編集シリーズ(他に白と赤)と銘打っているようです。
全作品を通して思うことは、あまりにも説明がないこと。
いきなり知らない世界に投げ込まれ、一体何が起きているのかを理解できるまでに時間がかかります。
ただし、それがこの作者の持ち味でもあるので、否定はしません。そのわからなさを体験すればいいのでしょう。

 

最も印象的な作品は「沈んでいく姉さんを送る歌」。内容は題名そのまま。
なんとも息苦しいような、不条理な世界ですが、「タールの池」に敷かれた敷物に掟を破った女性を立たせ、ゆっくりと沈んでいく姿を家族や親類が歌いながら見守るという残酷で不思議な儀式というか刑罰を描いています。何でそんな事になったのかは読んでいるうちにわかるのですが、本作中では最もわかりやすい部類の作品です。
世界幻想文学大賞受賞とは相性が良くないのかも、と先日書いたばかりですが、これは良し。
早くも前言撤回です(笑)

 

「赤鼻の日」はなぜか街にたくさんいる道化師を次々に撃ち殺す殺し屋をひたすら描くだけのこれまた不条理な世界。
直前まで親しくしていた人が道化師とわかるや無慈悲に躊躇なく撃ってしまうあたり、
むしろ清清しさすら感じるがなぜそんなことが行われているのか理由はわからない。
「赤鼻の日」という題名を考えると、道化師以外が対象の日もあるのか?と思ったが解説を読むとイギリスに本当に「赤鼻の日」があるという。勿論こんな残酷な日ではなく、慈善事業らしいが。

 

「ヨウリンイン」は不気味な怪物、ヨウリンインが突如人間を襲い、無残に殺戮しては
また姿をくらますことを繰り返しているらしい街の話を描いているのだが、それを少女の視線で恋愛をからませて描いている。
何度も同じ過ちを選択してしまう人間に対する皮肉も感じられる。

 

これら意外にも象の目線による物語だったりカルト宗教がらみの話だったり天使の話だったりと次々と不可思議な世界を見せ付けられ、説明がないなりに面白さを感じる反面、オチがないという投げ出された感覚もあって、いきなりここで終りかい!みたいな作品も多い。
不条理世界の一部を切り取って見せられているだけと考えればいいのかな。

 

題名も合ってるし、実はあまり期待していなかったせいかこんな奇想も有りだなと思える作品集でした。



以下、作品リスト

 

「沈んでいく姉さんを送る歌」 「わが旦那様」 「赤鼻の日」 「いとしいピピット」 「大勢の家」「融通のきかない花嫁」 「俗世の働き手」 「無窮の光」 「ヨウリンイン」 「春の儀式」の10篇。