吉祥読本

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元気なぼくらの元気なおもちゃ ::ウィル・セルフ

ウ~ン、題名とはうらはらの内容。
奇想コレクション読破まであとわずかとなってきてだいぶ慣れてたと思ったんですが
いやはや侮れません。
著者が子供の頃からやばいクスリにドップリ浸かった体験が十二分に発揮された作品にグッタリ。
翻訳者も相当苦労したようですし、実際理解しきれていない、みたいなことも書かれています。
それでは読者も苦労するわけだ(苦笑)

 

収録作最初の作品「リッツ・ホテルよりでっかいクラック」は、最後の作品「ザ・ノンス・プライズ」と
登場人物が同じです。
クラックの鉱脈をみつけた主人公ダニーが弟のテンベ(すでにクスリが手放せない)を売人にして
やばいビジネスを展開する。金持ちの客の壊れ方がリアルで自らの経験が反映されていると思われます。
「ザ・ノンス・プライズ」ではクスリに手を出さなかったはずのダニーがクスリ漬けになっていて
テンベと立場が逆転している。
残虐な連中にはめられ、罪を着せられたダニーが刑務所内で作家を目指すが、
収録作中では読みやすく面白い?ほうかな。
ただし、描かれている犯罪は悲惨でイカレタ犯罪者ばかり出てくるので、
素直に楽しめる作品ではありません。
ダニーに好意的で良い人と思われる警務官や所長なども実は裏がある、
なんてことをサラリと描いているあたりはなかなかうまさを感じます。

 

「虫の園」は最もわかりやすい作品。
虫と人間が意思疎通できるのですが、虫がいっぱい(大量ということ)出てくるので虫嫌いな人には
かなり気色が悪い描写もあります。

 

「ヨーロッパに捧げる物語」は設定がありがちながら面白い部類の作品でした。
親の心配を他所に子供が意味不明の言葉を口走り続けます。
一方同じ時期にドイツの優秀な銀行マンの様子がおかしくなります。
二つの情景をかわるがわる描くことで一体何が起きているのか。。。ブラック加減がいいですね。

 

「やっぱりデイヴ」は本作では最も理解できない作品でした。
多分妄想を描いているんでしょうけど、変です。
???というのが正直な感想です(苦笑)

 

「愛情と共感」はSF的な設定で、「大人」は「エモート」という大きな「存在」を身にまとい、
色々な意味で人間を保護してくれています。親みたいな感覚なのでしょうか。
そのエモートが人間の見えない場所で本性を現したところで物語は終わります。
なんとも皮肉めいた作品ですが、意表を衝かれるというか、だから何だよみたいな。。。(笑)

 

「元気なぼくらの元気なおもちゃ」と「ボルボ760ターボの設計上の欠陥について」も
同じ登場人物が出てくるため、併せて読めることで面白みが増すことになるでしょう。
ただし、落としどころがわかりにくいので苦労しました。
「元気~」ではヒッチハイクの男を乗せる精神科医はそのハイカーと会話しながら、
つい、ハイカーの分析を始めてしまいます。
しかしいつの間にか、その分析は自らに向けられているような。。。。
ボルボ~」はその精神科医の浮気願望の意味不明な妄想みたいなもので
凡人には理解が難しいものでした。。。



もっと手短に感想を書こうと思ったのですが、簡潔に書くのは難しく、あきらめました。
奇想コレクションを制覇しようとか、風変わりな作品を読んでみたいとか、そんな人は別として
よい子のみなさんはわざわざ読まなくてもいい作品かも。
奇想コレクションのスタートにこれを読んでいたらきっと制覇なんて考えなかったと思います。