吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

失われた探険家 ::パトリック・マグラア

19編と既読の奇想コレクションで最も作品数が多いかな?と調べたら「蒸気駆動の少年」が
23編だったから第2位。

 

短い分読みやすいが、それでも理解しきれない作品がチラホラ。
雰囲気的には似通った作品もあって、途中、食傷気味になったが(苦笑)
こんな奇想もあったのか、と虚を衝く作品もあった。

 

犯罪を犯した精神障害者が収容される医療施設、イギリスのブロードムア精神病院の院長を父親を持ち、
入院患者を近くで見ながら育ったというマグラア。
オスカー・ワイルドやサキなどにも影響を受けているようだが、一番の影響は育った環境かもしれない。

 

印象的なのが「天使」「失われた探検家」「黒い手の呪い」「長靴の物語」「血と水」「監視」「悪臭」

 

ニューヨークを舞台にした「天使」は描写が濃密なゴシック風で、匂いたつような感覚に戸惑うというか
堪能できたというか。映画「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」を思い浮かんだが、これは天使。

 

表題の「失われた探検家」は、突然庭に現れた瀕死の探険家がその家の少女によって発見される。
コンゴで行方不明になった探検家がロンドンに現れるのだが、理由の説明は無い。
朦朧としながら交わす会話から一体どうなるかと思えば。。。少女の行動は残酷かもしれないが
無垢な行動にも感じられる。

 

「黒い手の呪い」はちょっと笑ってしまいそうな設定。頭から手が生えてしまった男の話ですから。

 

「長靴の物語」は本作の中で最も奇抜な設定である。長靴の片割れが語り部なのだから。
しかし、彼?が語る内容は核戦争後に核シェルターで過ごす長靴の持ち主一家のこと。

 

「血と水」は最終的にブロードムアで余生を送った男の残虐で不気味な物語。

 

「監視」「悪臭」などは信用できない語り部を使う手法だが、
なんとも気持ち悪くグロくて後味が悪い。でもなんかこれがマグラアらしさなのかも。

 

ホラー、耽美、宗教的など、作品のテーマは多彩に見えるが、一辺倒な印象も拭えない。
そのため好きなタイプの作家かもしれないと思う反面、退屈さを感じるものもある。
全体を通して短い文章でありながらシーンが目に浮かびやすいので映像的と言ってもよい。
的確な描写だが、的確すぎて気持ちが悪くなることがたびたびあった。
とにかく好き嫌いは別に描写力が際立っている作品が多かったと思う。



作品リスト
 「天使」「失われた探検家」「黒い手の呪い」「酔いどれの夢」「アンブローズ・サイム」
 「アーノルド・クロンベックの話」「血の病」「串の一突き」「マーミリオン」「オナニストの手」
 「長靴の物語」「蠱惑の聖餐」「血と水」「監視」「吸血鬼クリーヴあるいはゴシック風味の田園曲」
 「悪臭」「もう一人の精神科医」「オマリーとシュウォーツ」「ミセス・ヴォーン」