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後藤新平 日本の羅針盤となった男 /山岡淳一郎

東日本大地震による復旧、復興はまだまだ先が見えていない。
地震によって原子力問題が噴出し、電力会社の対応が注視される中、
当然ながら政治家の真価も問われる状況になっている。

 

電力会社経営陣の不誠実な対応や、政局に時間を費やす政治家については改めて書く気は無い。
ただ、復興モデルとして取り沙汰された関東大震災後の復興院に関して興味を持ったので読んでみた。

 

医師からスタートし、内務省官僚、政治家、そして政治家としても大臣を歴任した人物。
名前は知っているが実績に関してはあまり知らないし、後藤新平が出てきた作品では
星新一が残した数少ないノンフィクション、「人民は弱し 官吏は強し」に出てきたな、
くらいの記憶しかない。

 

意見が合わなければ相手が誰であれ論戦を挑み、部下には情が深く、
才能を認めればどんな人間であっても分け隔てなく付き合う人物像は魅力的だ。
児玉源太郎新渡戸稲造北里柴三郎をはじめ、各界の実力者との人脈がある反面
日本の暗部で活躍していた杉山茂丸夢野久作の父親)とも交友があり、
常に清廉な政治家だったかは怪しいが、政治家はある程度の清濁があっても
国民や国にとって有意義な結果さえ残してくれれば多少は目を瞑ろうと個人的には思っている。
友愛だけでカタがつくなら政治家はむしろ必要ない。

 

常に問題意識を持ち、問題点を見つけるやすかさず改革案を(勝手に)考え出しては
然るべく人物に献策する。それが獄中であっても為されている行動力には驚かされる。
当然それを疎ましく思う連中も多いが、気にしない。豪傑っぽいが彼の立てるプランには
先見性があり、細やかである。
その才能は敵味方関係なく認めざるを得ないので重用される。

 

内務省官僚の際には日清戦争の帰還兵を対象とした検疫事業を成功させ
世界を驚愕させた。

 

植民地とした台湾を統治すべく任命された民政長官時代には台湾のインフラ整備や
阿片対策に力を発揮し、台湾経営の基礎を作った。
統治されていたにもかかわらず台湾が今なお日本に好印象を持ってくれているのは
後藤の功績なのかもしれない。

 

いよいよ政治家として大臣を歴任し、関東大震災直後に成立した震災内閣には
内務大臣として入閣し、帝都復興院総裁を兼任して復興プラン策定に奔走する。
政治的には対立状態にあった山本権兵衛首相の下での滅私奉公である。
何を優先するか。
政治家としての覚悟と責任感を持つ後藤の行動は賞賛すべきものだろう。

 

が、しかし、現在の状況にも見られるように政治家の詰まらぬ戦いはこの時点でも存在する。
大物政治家の反発や官僚同士の対立の前に思うように手腕を振るえず、
大胆な計画は縮小の憂き目に遭い、政権交代により復興院総裁も交代、
最後には復興院も内務省の外局にまで格下げされてしまう。

 

後藤のような立案能力、行動力、人脈、精神力を持ってしても壁を乗り越えることが
できなかった事実は、現在の政治家ならばなおさら無理なことだと思い知らされたのが悲しい。
昭和天皇は以下のような発言を残したとのこと。
後藤新平のあの時の計画が実行されないことを非常に残念に思います。」
(作品で引用していた「陛下、お尋ね申し上げます」より再引用)

 

後藤は
「政治家、官僚は国民が政治的自覚を持つよう促し、公益のために公平無私で行政に臨むべき」
と唱えている。

 

現在、政治家に何が求められているか、真摯に受け止めて欲しい。
あの頃と時代もインフラも違うのは当然だし、財源だって余裕は無い。
けれど、失敗を恐れたり、できない理由ばかり列挙しているだけでは何も解決しない。