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円を創った男―小説・大隈重信 --渡辺房男

日本初の政党内閣の首班にして、早稲田大学の創設者―。一般に大隈重信の業績といえばこれに
集約されるが、大隈がその能力を最大限に発揮したのは、明治4 年の「新貨条例」の布告によって
完成された幣制改革であった。新通貨「円」はいかにして生れたのか。
若き日の大隈の苦闘を描く傑作歴史小説。(「BOOK」データベースより引用)


実は大隈重信に関しては良く知っている名前にもかかわらず、実像はほとんど知りませんでした。
せいぜい、早稲田大学の創設者とか総理大臣になった政治家くらいのものです。
名前だけだったら読まなかった気もするが、題名にある「円を創った男」というところが気になって
読むことにしました。

佐賀藩出身の大隈は、できたばかりの明治新政府で自分の力を発揮したいと思いながら
長崎で外国との貿易管理の仕事をしていた。
かなり手強いイギリス公使、パークスとの交渉など、難しい仕事をこなすことで頭角をあらわすこととなり
外国人相手に一歩も引かない交渉術は、今の日本の政治家には最も足りないものであり、
大隈重信が現代にいてくれたらどれほど頼もしかっただろうと何度も思った。

伊藤博文井上馨と親しく、互いに利用、協力しながら中央に進出し始めた大隈は、日本の近代化、
安定化のために先進国に負けない貨幣制度を確立する必要性を訴え、奔走する。
薩長土肥のなかにある確執や函館で抵抗を続ける榎本武揚らを抑えるべく戦費拠出など問題が山積する中で、
かなり強引なやり方なども用いながら行動する姿は意外に感じた。
大学創設者ということでもっと学者肌なのかと勝手に思っていたからだ。
伊藤博文などは最初こそ仲が良かったが、後日敵対する。しかし、政敵であり、疎ましく思っていても
彼の持つ精神力と交渉力は必要とされる程のパワーがあったようだ。
そしてそれだけのパワーが無かったらきっと「円」という貨幣は、また日本という国家は
現状とは違うものになっていたのではないだろうか。
この作品は貨幣制度にスポットを当てられているが、佐賀藩時代、政治家、政党、学校創設など
生涯を通すとかなりのエピソードがあるはずだ。
ところが派手で魅力的な人物たちが多かった時代とは言え、これほど目立たなかったのはなぜだろう。
大声で持論をまくし立て、人の話はあまり聞かないタイプだから嫌われやすかったようだが、
やはりそんなことが後世にまで響くのだろうか。
ただし、嫌われる位のエネルギーがないと大きな改革などきっとできないのでしょう。
人柄とは別に、もっと正当な評価が為されてもよい人物だと思いました。
と言いながら実際には自分もあまり好きになれない気がします(笑)

あまり目立たないところにスポットをあてた本作のような作品は、小説であっても貴重ですね。