吉祥読本

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ストーカーとの七〇〇日戦争

著者:内澤旬子
出版社:文藝春秋

 

内澤さんの著書を読むのは2冊目。
ご本人がストーカー被害にあってしまったことを包み隠さず書いているが、
ここまで自分のことを書くのは辛かっただろう。
ストーカー事件を題材にしている書籍は少なく、
ましてや本人が経験を語るというのはかなり稀なことだと思う。

出会い系サイトで知り合い、交際を始め、数カ月で別れを切り出し、
そしてストーカー行為が始まるわけだが、そういう出会いが今や普通になったとはいえ
読み始めは著者の男に対する言葉や迂闊な行動が気になったこともあり
もう少し慎重であればなあ、と思って読んでいた。
もちろんストーカーが一番悪いのは理解している。それは当然だ。

暴力こそ無いが、執拗な言葉の攻撃やSNSによる嫌がらせ、
無関係な人を含む周辺の人を巻き込むことを厭わない自分勝手な
行動を続ける男に対する恐怖はかなりのものだろう。
自分の身に置き換えると男であってもこの状態は怖いと思う。

犯罪がらみのノンフィクション作品を読むといつも思うが、
日本の法律は被害者よりも加害者の人権を守ることのほうが大事なのだろうか?
と疑問だらけになるが、本書にも法律の障壁が次々と被害者に
のしかかる事態に直面し、読んでいて歯痒い。

ストーカー事件に対する警察や検察、そして弁護士などの対応は
本当に遅れていることを痛感する。
ネット犯罪然り。

判例がないとか、法律的にこんなことやあんなことには対応できない、
これはあっちの管轄でこちらでは何もできないという縦割りの悪しき日本の限界。
時代を読みながら想像力を駆使して先手をうって新しい犯罪に対処するのは
難しいのでしょうか。
組織を縦断して柔軟なチーム作りができないものなのでしょうか。
ああ、そうでした、何かが起きないと動けないんでしたっけ?
多くの日本の政治家や官僚は。


本書で知ったが、ストーカーが「病気」という視点はなかった。
他の犯罪でも加害者が病気扱いだと罪が軽減されたりするけれど、
被害者からすれば病気だからって軽くしてんじゃねえよ!って思うよな。
ましてや本書に出てくるストーカーは生活保護受けてるから金は払えないとか
開き直る奴だし責任感や罪の意識が皆無な人間には
病気なんだから仕方がないだろ?って開き直る理由を与えることにもなる。

感情的にはそうなるが、内澤さんはそれでも自分の身を守るために
カウンセリングを受けさせる努力をしている。
そうだね、病気なんだとしたらカウンセリングで治る可能性もあるわけだし、
それが最も安全安心な将来への近道だと思うのも納得できる。
根気よく気丈に身を守るための方法を模索する内澤さんには
素直に敬意を表します。

ということで、病気なのだとしたら誰しもがストーカーになり得るわけで
ちょっと不安にもなるが、本書を読むとストーカーに関する
貴重な情報が満載なので一読の価値はあると思う。

 

2020/7/9読了