吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

原稿零枚日記 /小川洋子

特に前知識も無かったのだが、題名からして勝手にエッセイ集だとばかり思っていました。
ところが読み始めるとなんだか様子が変だ。
小川さんの日常生活を綴っているんだろうなあ、と素直に読み進めていると、
徐々に非日常の不穏な空気が漂い始める。
取材旅行だったはずなのに奇妙な世界に紛れ込み「苔料理」を食べている主人公。
事実か?創作か?奇妙な夢を語っているのか?
淡々と綴られているのに、妙に不安に駆られるというか現実と幻想の行き来をしているよう。
(小説だと気付いても後日、書店で本書の帯を確認してしまいました。。。)

 

度々ゾクゾクっとする感覚に襲われ、なんとも陰鬱な気持ちにさせられたりもする。
主人公の「○○荒らし」なる密やかな楽しみは積極的なのか消極的なのか判断がつかないが、
ちょっとだけ抱く悪意、孤独の中にある共感などを残酷に、そしてさりげない表現で描いていて
小川さんの持つ凄さを感じる。

 

まだ未読作品が多いが、行間に「猫を抱いて~」など他の作品と同じ匂いを感じさせる時があり
多分小川作品をたくさん読んでいる人にとっては、より面白さを感じ取れるのではないでしょうか。
そして臆測だが他の作品にはこれまで無かった匂いや、或いは嫌悪感を持つような匂いもありそうだ。

 

読後感が決していい作品ではないが、小川さんの放つ異彩な小説は魅力的でもある。
自らの感想を読み直してみると「匂い」という言葉が頻発している。
五感を刺激する作家さんなのかもしれない。