吉祥読本

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バイバイ、ブラックバード ::伊坂幸太郎

発売と同時に買ったものの2ページ目くらいでそこから先に進めず、ずっと放置していたのですがようやく読み終えることができました。
主人公の星野一彦は5人の女性と付き合っていて、その5人と別れの挨拶に向かう設定なのだが1章から5章までの構成はそれぞれテンプレート化されている。
それぞれの女性との出会いが描かれ、その後、別れるまでの過程が描かれる、という具合。

 

なぜ最初に読み進めることができなかったか。それはそれぞれの女性との出会い方がなんかとても受け付けられないまわりくどさを感じたからだし、「いけ好かない」という印象が強くてうんざりしたからだと思う。

 

そもそも5人の女性と別れる理由は「あるバス」に乗らなければいけないから。
そのバスの行き先に関しては解説がなく、どこに行くかもわからないが借金の返済ができないことが理由なので良い場所ではないことは確かである。
あと2週間で乗らなければいけないのだが、監視役として星野と共に過ごすのが繭美というマツコ・デラックスとピッタリ重ね合わせることができるほどの個性的な女。

 

実際この繭美が主人公だといっても構わないだろう。
繭美の言葉は正直で遠慮がなく、ズケズケと言いたいことを大声でまくし立てる嫌なタイプだが核心を衝く言葉が多く、読んでいてむしろ気持ちがスッキリしたりドキリとしたりクスリとさせられたり。
(不知火をキーワードにドカベンの話が出てきたり、刑事との掛け合いをする繭美がツボに入った)

 

出会いのシーンは「いけ好かない」ものの各章のラストはなかなかよかったと思う。
第4章の病院のシーン、第5章のサイボーグの涙、そして最終章の繭美の行動は加速度的にこの作品の評価を上げることになりました。このあたりの伊坂テクニックは素晴らしいです。

 

第一期とか第二期とかのピリオドを感じさせないところに落ち着いたと思うが
それでいいのではないでしょうか。
ゆうびん小説という形態で発表した作品のようだが、その形態自体にはあまり興味が無いのでシンプルに伊坂スタイルで書いてくれればいい。
出会い部分のまわりくどさは繭美がキッチリと張り飛ばしてくれたので(笑)
全体的な評価としては最近の作品の中では突出して良かったと思う。



これはあくまで個人的な妄想だが、バスの行き先が平山夢明のダイナーみたいなダークな世界を示唆していたらこの爽やかさが逆に闇の世界を浮き彫りにして怖いなと思ったのだが、ひどいかな(笑)
平山夢明が残虐な世界を描きながらも希望を提示するのと案外面白い対比になるように思ったのですが、そんな伊坂作品はきっと求められないでしょうね。
爽やかさが売りでもあるし、ファンがいっぱい離れそう(笑)