吉祥読本

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バスジャック --三崎亜記

「となり町戦争」が思っていたほど評価できなかったのですが、なんのなんの「バスジャック」は
再び期待を裏切ってくれて、思っていたよりも良かったです。
ショートショート2編を含む7作品が収録されています。
長編だとばっかり思っていたので肩透かしを喰らった気分ですが、発想力の豊かさを見せつけ、
案外短編のほうが得意なのかもしれないと思いました。
とにかく不思議な世界、不条理な世界を描いた作品ばかりでした。



「二階扉をつけてください」
 星新一テイストで、もう少しテンポを良くして短く刈り込んだら星新一の作品と
 言われてもわからないかもしれません。
 そりゃあ普通、鍵かけるよな。

 

「二人の記憶」
 阿刀田高を思い浮かべました。記憶を題材にメビウスの輪のような不思議な展開でした。
 最近の自分の記憶力の無さがリアルに不安を煽ります(苦笑)

 

「バスジャック」
 オチがわかってしまったのですが、わりとテンポがあって、伊坂幸太郎
 陽気なギャングっぽい印象を受けました。
 バスに乗ったら注意しないと。

 

「しあわせな光」 「雨降る夜に」
 ファンタジーテイストで不思議なショートショート
 共に不思議ワールドの中でほんのりと暖かさが感じられました。
 何を言いたいのか少しわかりにくかったけど、短いから二度読みも簡単です。

 

そして中編の「動物園」「送りの夏」。この2作品はよく出来た作品でした。

 

「動物園」
 発想としては7作品中、最も素晴らしいと思いました。
 動物園の檻の中に、あたかも本物の動物がいるかのように来園者に見せる仕事をしている女性の話しで、
 文章で表すとかなり嘘っぽいのですが、全く違和感なく読み進めることができました。
 こんなタイプの作品、好きです。それまでの作品で徐々に「おお?」と思いながら
 読み進めていたのですが、この作品で一気に「三崎さん、やるなあ」と感服しました。

 

「送りの夏」
 しめくくりの作品も不思議で不条理な世界が広がります。
 マネキン人形?を車椅子に乗せ、共同生活をしている人たちと、そこで共同生活を始める
 少女の話なのですが、なんとなく死の匂いが漂う共同生活を通して、「先立たれた人たち」の
 再生を描いている。
 ここ数年、送りの儀式というのは送る人たちを癒す意味合いのほうが強いのではないか?
 と思っていたのですが、まさにそんな感じのお話しでした。
 この作品が総合力では一番良かったと思います。
 読後、「三崎さん、評価低くてごめんね」とつぶやきたくなりました。



星新一」、「阿刀田高」、「伊坂幸太郎」の名前を出しましたが、これらの作家さんのテイストを
感じつつ、加えて「安倍公房」風味のパウダーを振りかけて仕上げたような印象でしょうか。
(どんな例えだ?どんな風味のパウダーだ?)
いろんな作家さんのテイストを感じてしまうと言うと、三崎さんに悪いかもしれませんが(笑)

 

下手な例えは置いといて適度にまとまり、期待が大きくなかったとは言え予想以上の好印象でした。
どの作品も「世にも奇妙な物語」として使えそう。
こんな引き出しを持っているのなら喜んで今後も読んでいこうと思いました。