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海竜めざめる --ジョン・ウィンダム

ジョン・ウィンダム + 星新一(訳) + 長新太(イラスト) の組み合わせである。
これだけで買いである。ちなみにこのシリーズを監修しているのが大森望
見事な仕事だなあ。
もともと星新一さんが訳したバージョンが存在していたのですが、別途子供向けのシリーズで長新太さんのイラスト付きバージョンが存在し、これらを混合して新しく出版した、という経緯らしい。

 

作品内容としては「トリフィド時代」と同じテイストの世界破滅を描いたSFで、それが完全に星新一ワールドになり破滅がテーマなのにマッタリとほのぼのするイラストが妙にマッチして不思議ワールドを展開する。
特にイラストはほのぼのとしている中に見事なまでにウィンダムの文章を凝縮させているし、星新一さんの文章ともマッチしている。
むしろ牧歌的に描かれるなかで妙にリアル感をも感じさせる破滅を、自然に受け入れてしまう最大の要因はこのイラストにあると言っても良い。


ある日、火の球状の謎の物体が深海に次々と落ちてくる。
そして海を中心に様々な問題が始まり、徐々に謎の「潜海生物」が陸地に対しても攻撃を開始する。。。

「潜海生物」の正体は最後までわかりません。深海で何が起きているかも、はっきりしません。そもそも「竜」のように長い生物をイメージしていた潜海生物は、むしろ海坊主である。雪見だいふくのようで、脱力ものである。
この生物、実は人間が何もしなければ共存しようとしていたフシがあります。
単純な「宇宙から来た謎の潜海生物」VS「人類」という図式ではないようです。
深海であれば棲み分けできるわけですしね。海洋技術の未発達な時代であれば、ですけど。人間がちょっかいを出す事が「潜海生物」を刺激しているのではないかと考えられるのですが、そのあたりはあまり突き詰めていません。
たまたま先に人間が地球の陸地で生活を開始したからといって後から深海に来た生物を排除していいか?と考えたら人間の思い上がりですからね。
「人間の自然に対する冒涜」への警鐘は、温暖化をはじめ、今の時代を予見していたとも考えられます。
ラストは、何となく明るい方向に向かうのではないか?と思えるんですが実は淡々とゆっくりと、そしてほのぼのと破滅していくのかもしれません(笑)
破滅へ向かう中で人間は何を考えるのか、どんな行動を取るのか、ウィンダムの考察はトリフィド時代同様、リアルな人間心理に視線が向けられているように思います。


大森さんの解説ではヴェルヌはもとより、「深海のYrr」などとの関連まで持ち出していましたが過去から最近の作品に流れる系譜を感じさせる作品であることは間違いないと思います。1950年代のSF映画にも大きな影響を残しているとのことでした。

 

深海祭りはまだ続きます。(5作品の予定だったのですが、4作品になりそうです)


◆深海祭り(笑)リスト◆

 

 

 

●海竜めざめる(ジョン・ウィンダム