吉祥読本

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竜が最後に帰る場所 /恒川光太郎

「風を放つ」「迷走のオルネラ」「夜行(やぎょう)の冬」「鸚鵡幻想曲」「ゴロンド」の5篇。

 

「風を放つ」は正直なところ何が言いたいのか意味が掴みきれませんでした。
ただ見知らぬ人間との電話での会話は相手が見えないだけでちょっと怖い。
そんな怖さを感じつつ、でもホラーっぽくもなく。。。。

 

「迷走のオルネラ」は、はじまりと締めがそんな繋がりになるのかと驚きました。
途中、DV絡みの話はとても嫌な気分にさせられますが構成の巧さを感じます。
主人公の復讐時の恰好がちょっといかがなものか、と思いますが(苦笑)

 

作中に「月猫」という題名の漫画の話が出てきて主人公がその漫画を評価する際に
  「そもそも伏線の回収うんぬんなどが本当に大切なんだろうか?
  そんなことよりその作品が心に何を呼び起こしたかが重要ではないのか?」
と考察しているシーンがあります。
これは作家さんならではの気持ちが反映されているような気がします。
つい回収うんぬんを持ち出してしまっている自分を反省。
確かに小説は何かを呼び起こしてくれればいいんだと思います。
でも伏線をきっちり回収してくれると、より気持ちいいということで(笑)

 

「夜行の冬」は恒川作品の持ち味が出ている典型で、従来の作品のエッセンスをふんだんに取り入れた
作品です。
夜の闇に歩き出してしまったら、果たして自分はどこで止まるのだろう、などと考えてしまいます。

 

「鸚鵡幻想曲」は変わった設定ですが好きなタイプの作品です。恒川さんの発想力には驚かされます。
目の前にあるものが何かで「偽装」されているとしたら。。。
蟻も嫌だけどゴキブリだったらさすがにきついなあ(苦笑)
ちょっと違うけれど三崎亜記の「動物園」を思い出しました。

 

「ゴロンド」も悪くない雰囲気の作品です。「竜が最後に帰る場所」という表題はこの作品を
指すんでしょうね。
そのまんま竜を主役にした話ですが、ファンタジックで長~い時間の流れを感じさせてくれました。

 

いずれも今後の作品の広がりを期待させてくれる作品群でした。
恒川さんのチャレンジ作品はいずれも平均点が高く、はずれが少ない作家さんだと思います。